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第6話

「なぁ、柿本。この椅子に縛った手脚を外して……」 柿本の気持ちを信じる覚悟を決めて、西辻は語り掛ける。 「……また自分と一対一で、ゆっくりと話し合わないか?」 柿本は依頼をじっと聴いていたが。椅子の傍へ歩み寄ると丁寧に屈んで、西辻の足首に巻き付けられた縄へと手を伸ばす。 堅く縛り付けられた縄を解くのに、柿本は苦戦していたが。なんとか手脚が自由になった西辻は、力が抜けたような柿本の肩に、ぽん、と手の平を乗せた。 「自分の家で話そうか」 その誘いに同意したのかは分からなかったが。西辻は柿本を車の助手席に乗せて、きつい縄の跡から痛む手首を使ってハンドルを掴んだ。 柿本は西辻の後をついてマンションの部屋に入ると、無言でフローリングの床に座る。 西辻も何も言わずに冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを二本取り出して、片方を柿本に差し出した。 「柿本も色々と疲れただろう?」 そう勧めると、ぼうっとした表情で柿本はペットボトルを受け取った。その真正面に向き合って、西辻も床に座る。 「資料室でふたりきりだった時と同じ事を訊くけど……なんで自分を、いきなり椅子に縛り付けたんだ?」 特に口調は気にせず、西辻の本心からの疑問を口にする。流石に「なんでいきなり犯そうとしたのか」なんて訊き方は出来なかったが。 「さっき、好きだから、って言った」 やはり柿本の答えも変わらない。その真剣な口調と眼差しに、西辻はすこし怯んだが。 「それなら……なんで、正直に告白してこなかったんだ? いきなり縛り付けられても……」 「それしかない、って思った」 困惑の台詞を遮って柿本は断言したが、ずっと西辻を見つめていた視線はすっと逸らす。 「好きなひとが出来た、って言ったら……犯せばいいんじゃないか、って教えられた」 「はぁ!? 誰から教わったんだ?」 思わず大声を出してしまった。そんな無茶苦茶な指導者が傍に居たのか? 「周りの奴等……女子も混ざってた」 そんな返事に、西辻は安心したような、呆れたような溜息をつき。乾いた喉にスポーツドリンクを一気に注ぎ込む。 恋愛相談をクラスメイトにしたら、からかわれたのか。いいかげんな連中から「イケメンなら誰に何をしても嬉しがる」なんて言われたのかもな。 しかし……こいつもそれを間に受けるか? 「じゃあ、止めてくれ、と訴えても止めなかっただろ? それはどうしてだよ」 「それは、あんたが男だから。嫌がられるのは、なんとなく、分かってた」 はっきり告げられて、西辻は言葉に詰まった。 適当な連中から背中を押されて、勢いで行動に移したが。どうせ上手くいかない、なんて想いも柿本の心の奥底にはあったのか。

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