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4章【見えない時の中で】
気を失ったシエルが目を覚ましたのは、アルベールが出て行ってから9時間後のことだった。
体は精液が乾いてカピカピになっており、精液特有の生臭い匂いがする。
秘部はヒリヒリと痛み、シエルはシーツに付着した血を見て裂けているのだとわかった。
両腕はまた固定されて動くこともできず、このまま眠ることしかできないのかと、シエルは扉を見つめてアルベールの帰りを待った。
シエルは何度かウトウトと眠りかけたが、待ち続けて3時間、部屋の扉が開いた。
「アル様…っ!」
シエルの呼びかけに気づいたアルベールは、カツカツと靴を鳴らしながらベッドに横たわるシエルの前に立った。
目の前に立ったアルベールを見て、シエルは言葉を失った。
アルベールの服は返り血を浴びて紅く染まり、そして人の血がこびりつく剣を、アルベールは舌で舐めた。
「人を……殺したんで…すか……?」
シエルが震えた声でそう聞くと、アルベールは鋭い目付きでシエルを見た。
「あぁ。100人程な。」
シエルは光を宿さないアルベールの瞳と、剣先から滴る血を見て、2年前のあの日のことを思い出した。
忘れもしない、国が滅びたのを目にしたあの日を。
愛する両親と、その民を殺されたあの日のことを。
部屋は暖かいはずなのに、シエルの身体中から冷や汗がダラダラと吹き出した。
体は冷え切って、シエルは恐怖でガタガタと震える。
シエルは自分の体を抱きしめて涙を流した。
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