45 / 266

第45話

「思い出したのか?」 「ぅっ………ひぐっ…………」 アルベールは剣を下ろし、指でシエルの前髪を掻き分けた。 シエルは俯いて目を擦り、アルベールと目を合わせようとはしなかった。 「俺が……、怖いか?」 アルベールの声色が変わり、シエルは顔を上げた。 また……、だ。 またアルベールが苦しそうに微笑んだ。 シエルはアルベールに手を伸ばすが、アルベールは立ち上がって部屋を出て行った。 「どうして…、そんな顔するの……?」 シエルの呟きは、アルベールに届くことなく消えた。 分からなかった。 彼のその表情の裏には、何が隠されているのか。 胸がきゅっと締め付けられた。 彼のことをもっと知りたいと思った。 その日はもう、アルベールが部屋に現れることはなかった。 たくさん泣いたシエルは、目を腫らしたまま眠りについた。

ともだちにシェアしよう!