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その①金額を示しましょう

田中信之助(たなかしんのすけ)35歳。2週間とちょっと前まで、働いていた会社をクビになり無職だった男。しかし、今はキャバクラのボーイとして働いている。 無精髭に、もさっとした髪。店の女の子からは気持ち悪いと言われているが、信之助は気にしていない。オーナーも、あまり気にしない質なのか何も言わない。 「ミキちゃん、指名入ってます。7番テーブルです」 「はーい。ちょっと席外しますね!」 2週間ちょっと経てば、仕事も慣れたものだ。たまに失敗したりもするが、そこは35歳。お茶目なおっさんの失敗として受け入れてほしい。 この職場を最後に(できたら)、これからも頑張ろう。両手で握りこぶしを作り、1人意気込んだ。 「あなたも、この店で働いているんですか?」 「ひゃい!」 いきなり声をかけられて、ビックリしてしまった。自分でも気持ち悪いなと思う声を出してしまった。相手もそう思っているんだろうなとビクビクしながら後ろを向くと、美形な男が立っていた。 キレイなスーツに、乱れていない髪。信之助よりも少し高い身長。 「は、働いてますけど。ボーイで。ボーイって年齢じゃないかもしれないですけど!」 何となくだが、信之助はこの人に嘘をついてはいけないと本能的に感じた。 「ボーイね。でも、あなたみたいな人がこんなお店で働くのは、ちょっと似合わない気がします」 「見た目的にか。いや、ですか?」 「見た目的にです。あなたみたいな可愛い人が、こんなクソ汚い店で働くのは本当に似合わない」 「??」 最初、意味がなにも分からなかった。でも、自分のことを可愛い、それからこの店をクソ汚いと言ったことは理解できた。 でも、信之助みたいなおっさんが文句を言ってはいけないような雰囲気だったため突っ込めなかった。 「だから、俺の家で働きませんか?日給8で」 「………………………ゼロはいくつ?」 「4つです」 「のった!!!!!」 信之助の叫びは、店中に響き渡った。

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