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その30デートをしてあげましょう

「何で俺はこんな格好してるんでしょうか」 「お前、羨ましいぐらい似合ってんな女装。背がちょびっと高いけど」 「嬉しくない言葉です」 佐久良が重たいため息を吐いた。でも、ルンルン気分で歩いている信之助は気づかない。それもそのはず。ずっと気になっていた、カップル限定のカフェ「ラビテディ」に行くのだから。 以前行ったことのある直人から助言をいただき、佐久良が女装をした。一応信之助もやってみたが、気持ち悪いおっさんが出来上がった。 「ポチが女装でもよかったと思うんですけど」 「俺がやったら、ただの気持ち悪いおっさんだったろ。皆に止められた」 「可愛かったんですけどね、」 「だから、いっぱい写メ撮らせたんだから許せよ」 いまだに、信之助の女装を諦めていない佐久良。外に出る前、十分に女装写真を撮らせてあげたのだが満足はしてないようだ。 「ほら、もう着いたんだから諦めろ。な、佐久良」 「ですが、」 「あれだったら、家に帰ってお前の希望する服を着てやるから、それで許せ。な」 「じゃあスク水でお願いします」 「即答!?しかもマニアックなやつきたっ」 「分かってると思いますが、女物ですよ」 「ですよねー」 2人の会話が聞こえていたらしい。若い男が、ひきつった顔をしてそそくさと2人から離れた。そんなことにも気づかず、店の中に入る。 店の中に入った瞬間、佐久良は帰りたいと強く思った。こんな可愛い店、長い間いるのは無理。 そう結論付けたが、キラキラした瞳とか楽しそうな笑顔とかを見ていたらしょうがないとさえ思ってしまう始末。 「じゃあ、さっさとパンケーキを食べて帰りましょう」 「おう!しょうがねーから、あーんして食べさせてやるな」 信之助自身からこんな言葉が聞けるなんて。佐久良は自然と頬が緩んだ。 まぁ、そんなこんなで席に座り注文した。もちろん、1番人気のパンケーキ。このパンケーキは、2人で1つを頼むのが定番と聞いていたので1つだけ頼んだ。それを2人で、交互にあーんをしながら食べさせあう。 「美味しいですか?」 「んんっ!めっちゃうまいっ」 「ならよかった」 本当に幸せそうに笑いながら信之助がパンケーキを食べているから、こっちも幸せな気分になってきた。 「そう言えばポチ」 「ん?」 「さっき、家に帰ったらスク水って言ったんですけど、それプラスバニーちゃんも着てもらっていいですか?」 佐久良がこんな変態だったなんて。いまだに信じられないが、佐久良に逆らえない俺はいつのまにか頷いていた。

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