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その29新しい仲間を紹介してあげましょう
朝ごはんを食べ終わって、ゆっくりと食後のお茶を飲みながら、信之助はジッと目の前にいる男を見つめた。信之助の視線が恥ずかしいのか、男は顔を真っ赤にして俯いている。
「どうしたんですか、ポチ」
隣で同じようにお茶を飲んでいた佐久良が、不思議そうに信之助に問いかけた。佐久良にとって、この男が目の前にいるのは当たり前らしい。でも、信之助にとってある意味初めましてなのだ。誠太郎の家で、パッと会ってるぐらいなのだ。こうして見つめてしまうのも仕方がない。
「いや、何でこの人がここにいるの?」
「何でって、直人さんは秋島組の組員ですよ」
「うっそ!誠太郎さんの息子と付き合ってたから、島田組の人かと思ってた」
「あぁ。直人さんがあんな木偶の坊と付き合ってるなんて、正直認めたくないですけど。でも、俺の部下です」
「霧生直人です。秋島組の組員で、仕事の事情で昨日までここにいなかったんですけど、今日からまたここで暮らすので、よろしくお願いします。えっと、」
「あ、田中信之助です。こいつからはポチとか呼ばれてますけど、信之助が名前なんで」
「よろしくお願いします、信之助くん」
優しい笑み。顔は男前で、身体は筋肉がムキムキで。でも顔や身体に似合わず優しい笑みを浮かべるから、信之助はキュンキュンしっぱなしだった。しかも、ちらりと見える直人が身に付けているものは、どれも可愛いものばかり。
その中のある1つを信之助は見てしまった。そしてキラキラと目を輝かせて、直人の手をギュッと握った。
「それっ!ラビテディ限定の、うさくまキーホルダーですよね!」
「はい、そうですけど」
「俺、その店ずっと気になってて、あのふわふわパンケーキとかほんともう美味しそうで」
「俺もそれ目当てで行ったんですよ!」
「でも、ラビテディってカップル限定の店ですよね」
そう。ラビテディとは、カップル限定のカフェなのである。そこで限定発売されている、うさくまキーホルダーを直人は持っていた。
こう見えて、甘いものが大好きな信之助。その店がずっと気になっていたが、恋人がいない信之助には到底行けない場所だった。
そこに、直人は行ったのだ。
「カップル限定のお店なんだけど、その、秀太くんが、その、女の子の格好をしてくれて、それで」
「あぁ。なるほど」
信之助は納得がいった。男同士だと絶対無理だが、どちらかが女装をすれば。
「ポチ?まさかとは思いますが、」
それまで2人の会話を黙って聞いていた佐久良は、嫌な予感がして信之助を見た。その予感は的中していたみたいで、ニヤニヤと佐久良を見て笑っている。
「佐久良、お前が女装をして俺をラビテディにつれてって」
佐久良の太ももに手を添えて、上目遣いでのお願い。そんな信之助の誘惑に負けてしまった佐久良は、いつの間にか頷いていた。
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