85 / 85
その71重大発表をしましょう
「晴れましたね、ポチ」
「ん。そうだな」
雲ひとつない青空を見ながら、信之助はこの日が来て良かったと思う。
今日この時から、信之助は秋島組の一員として生活するのだ。もう、何も知らなかった前の生活には戻れない。これから先、どんな汚いことをしても佐久良のそばにいると決めたのだ。
この屋敷に初めて来た時、自分がこうなるなんて想像していなかった。自分がヤクザの一員になるなど、想像するはずもない。なるつもりもなかった。それでも信之助は、佐久良を選んだのだ。
佐久良はいつでも、信之助のそばにいて守ってくれた。だから次は、信之助が佐久良を守る番なのだ。
秋島組の組員には、信之助が組みに入ることは承知済みだ。仲間になってくれて嬉しいという声もあれば、泣きながらこんな世界に入っちゃダメですと反対する組員もいた。
でも、どんなに反対されようとも、信之助の決意は揺るぐことはなかった。
「っはー。今日で俺も、ヤクザの仲間入りか」
「怖いですか?」
「怖くないって言ったら嘘になるけど。でも、お前がいるから大丈夫」
照れたように信之助は笑い、そして佐久良に近づき頬にキスをした。佐久良は信之助がキスをしてくれるとは思ってはおらず、驚きでピタリと動きが止まった。それを見て、信之助が笑う。
例え信之助がヤクザになろうとも、こういった日常は変わらないのだ。佐久良と信之助、それから秋島組の皆がいれば。
「おじさんだけどさ、これから俺をよろしくな。秋島佐久良組長!」
そう。これで、信之助は終わると思っていた。だからこそ、佐久良の笑みがほんの少し違うことに気づかなかった。
油断していた。ここで気づいていれば、この後の展開を回避出来たかもしれないのに。
まぁ、佐久良の手にかかれば回避などは無理なのだが。
「ところで佐久良。ただ俺が秋島組に入るだけなのに、何でここに来たの?」
気づけば、信之助の歓迎会が行われた会場がある建物の前にいた。あれよあれよという間に車に乗せられ、そしたらここにいた。
信之助はパチリと目を開けて驚いているが、佐久良は知らんぷり。ただ信之助の腕を引きながら、建物の中に入っていく。信之助達の後ろには、秋島組の組員全員がいた。
「佐久良。ちょっとおい。黙ってないで、説明してくれよ」
「……………」
「おーい。佐久良さん?」
何度も名前を呼んで聞いてみるが、佐久良は答えてもくれず。ここに来た理由を知らされないまま、見覚えのあるドアの前に立っていた。このドアの先は、自分の歓迎会を開いてくれた会場なのだろう。
もしかして、自分が秋島組に入るからまた歓迎会を開いてくれるとか?きっとそうなんだと、信之助は勝手に思っていた。
しかし、佐久良が入り口のドアを開けた瞬間、信之助が石のように固まった。
【田中信之助、秋島組組長襲名披露宴】
「――――――――――はい?」
固まった体を頑張って動かし、チラリと佐久良の方を向く。そして見てしまった。
佐久良が幸せそうに、満面の笑みを浮かべているのを。
第1部?END
これにて、第1部?終了です。
次回から新しく、信之助が組長として頑張る話を書いていきますのでよろしくお願いします!
ともだちにシェアしよう!