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第1話

トーク番組で俺の隣に座ったのは水野恭介くんという、俺よりも6つ年で26歳のアイドルだった。 「杉原はどういうのがタイプなの?」 「タイプすか?え〜っと…」 芸人になってから10年近く経つが、やっと最近コンビでテレビの収録に呼んでもらえるようになった。 相方の梅原とは養成所で出会ってコンビを組んだ。 俺がボケ担当。 今日の収録は俺たちコンビとアイドルの水野くんがゲストで、MCの先輩芸人が2人。 プライベートなことを話したりVTRで見たりするトーク番組だ。 「色っぽい人が好きっすね。あと、スーツ似合う人にも惹かれます」 「じゃあ、今日隣にいる水野くんはどう?」 テレビに出るようになってから自分がゲイであることを公表している。 初めは驚かれたり、興味本位で無神経な質問をされたりしたが、近頃はましになった。 「う〜ん…どちらかといえばありっすね!」 「まじっすか?どう喜んだらいいかわからないっす」 純粋にありだと思った。 彼は5人組アイドルグループ所属で、最近ピンでの仕事が増えている。 背は俺より少し低いから175くらいで、細身。 アイドルなので当然顔は整っているが、中性的な雰囲気で、透き通った色白の肌。 少し垂れ目なのが可愛い。 本当に26歳なのか疑ってしまいそうなほど綺麗で、7割くらいは何を考えているかわからない表情と受け答えをする。 しかし、それが彼が最近活躍している理由でもあった。 「じゃあ水野くん、今晩どう?」 「いいっすよ!後で連絡先交換しましょう」 ドキッとした。 俺も冗談で話を振ったし、彼もそれに乗っかっただけだと思うが、一瞬目がとても真剣に見えたから。 「仕事中にナンパすんなよ!水野くんもテキトーに答えんな!」 すかさず梅原に突っ込まれる。 みんなと同じように笑ったが、先ほどの水野くんの視線が胸に焼き付いて離れない。 ざわざわした。 今日の仕事はこの収録が最後で、収録が終わり、MCをしていた先輩方に挨拶をして荷物をまとめた。 真剣な目は勘違いだったのかな。 収録中のリップサービスを本気にする方が気持ち悪いか。 「明日の営業のネタ合わせする?」 「おう、そうだな」 梅原に言われて我に帰る。 仕事に集中しなくては、と。 「杉原さん、連絡先教えてもらってもいいですか?」 「え…?」 耳を疑った。 水野くんがいた。 「あれ、やっぱり冗談でした?無理には大丈夫です。お疲れ様でした」 俺が驚いて固まっている間に水野くんは立ち去ろうとしている。 「ま、待って!連絡先、教えるよ」 「ほんとですか?ありがとうございます」 色白の美青年が笑う。 スマートフォンの画面をタップする指がとても綺麗で、画面を見る目のまつげが長い。 見惚れている間に水野くんが連絡先のQRコードを差し出してくる。 それを読み取って登録した。 「君アイドルでしょ?いいの?こんな奴に連絡先漏らして。こいつに狙われちゃうよ?」 横で見ていた梅原が言った。 「俺も仲良くなりたいと思ったんでいいんです。杉原さんは特別です」 「さいですか」 俺は何も言えなかった。 年下の美青年が俺を特別だと言った。 それこそリップサービスだとわかっていても、喜ばずにはいられなかった。 今日会ったばかりのこの青年にここまで惹かれるものがあるのか。 これは彼のファンになったということか。 いや、違う。 ファンの心理とは異なる感情だとは断言できる。 「ありがとうございました。今度飯行きましょーね!お疲れ様でした」 「おう、お疲れ」 なんとか平静を装って歩き出す。 「あの子、時々何考えてるかわかんねぇな」 梅原は鋭いところがあるから、人のちょっとした変化にすぐ気付く。 「ああ、俺もまさか本当に連絡先交換するとは思ってなかった」 「あの雰囲気が人気の秘訣ってか」 テキトーに返事をする彼の本心が知りたい。 綺麗な顔の奥に何を隠しているのか知りたい。 間違いなく俺は彼に惹かれている。

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