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現の夢11

 番人は敦士の代わりに、唇についている髪を人差し指でさっと外し、自嘲気味な微笑みを湛える。 「俺のこの姿はとある人物の手によって作られた、現実世界ではありえない者なんだ。夢の世界ではじめて存在を感じられる、夢の番人だからな」 「でも僕はこうしてじかに、番人さまを実際に見ることができます。触れられないけど、貴方がいることを感じる人間がいるんですよ!」  告げられた内容があまりにも可哀そうで、思わず叫んでしまった。しかし敦士の言葉を耳にしても、番人の表情は相変わらずだった。 「……それがどうした。お前は俺の特別だと言いたいのか」  抑揚のない冷めた声が、室内の中で静かに響いた。 (自分の目と耳はこの人を感じることができるのに、それを表現するすべがないなんて――)  敦士が語彙力のなさに、下唇を噛みしめながら両手を握りしめると、番人が目の前にある窓に向かって歩き出した。幽霊のように窓ガラスをすり抜けてベランダに出るなり、空中をふわりと浮遊する。 「番人さま?」  首に巻いているストールと一緒に、肩まで伸びている白金髪をなびかせて、マンションの5階よりも少しだけ高いところに飛んで行ってしまう姿を眺める。  見つめているうちになぜだか引き留めたくなり、その後ろ姿にそっと右手を伸ばした。 「コト切れそうになったら、また来てやる。俺の相手をするために、せいぜい悪夢を見る練習をしておくんだな」  自分のとった行動で気持ちを見透かしたのか、見下ろしながらいきなり告げられた言葉に、敦士は伸ばしていた右手をガッツポーズに変えた。 「分かりました! 番人さまをいつでもお迎えできるように、悪夢の見方を調べておきますっ」  カラ元気で答えた敦士に返事をせず、番人は意味ありげな笑みを唇の端に浮かべた。  さっきまで冷ややかな態度をとられていたため、内心かなり落ち込みかけていたのに、番人の優しそうな笑みを見た瞬間、胸がどくんと疼いた。  頬を染めた敦士をそのままに番人はすぐさま真顔になり、周囲をきょろきょろしてから、颯爽と目の前から消えてしまった。 「言いつけを絶対に守ります。だから逢いに来てください……」  ぽつりと呟いた言の葉が番人の耳に届くはずがないのに、呟かずにはいられない。  まったく取り柄のない自分が、誰かに頼りにされたことが嬉しくて堪らなかった。そこに特別な感情が伴っていなくても、役に立ちたいという想いが勝っていたので、このときは何も考えずに、指示されたことを実行したのだった。

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