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光2

「今までの経験を生かして、逃げ出さないような会話術を、ここぞとばかりに展開させるだけです」 『このままいけば、仕事が軌道に乗ったことにより、あの男に自信がついて、彼女ができる可能性が出てくるやもしれん。お前が迫ることで、幸せな未来を潰すかもしれないぞ?』 「アイツの記憶はなくなったでしょうが、俺は約束したんです。必ず逢いに行くと」 『まったく。強欲なヤツだな、お前は』  くつくつ笑う創造主に、高橋は対抗するような笑みで微笑みかけた。 「逆に、感謝しなければいけないと思います。敦士のお蔭で、貴方様の仕事が減ったのですから」 『確かにな。しかし男に当たって砕けて、ふたたびここに舞い戻ってくるなよ』 「自殺なんて馬鹿な真似は、金輪際いたしません。貴方様にこき使われるなんて、二度とごめんです」 『二度あることは、三度あるという。お前に、神の瑕疵があらんことを』  どんどん小さくなる創造主の声を、何とか最後まで聞き取ったあとに、高橋の意識がふっと遠のいた。 (――ご加護じゃなく、どうして瑕疵なんてことを言ったんだ?)  そんなくだらないことを考える余裕があったわけは、どこかに向かって落ちていたからだった。あまりの長さに、落ちている感覚すら危うくなる始末だった。  だがやがて背中に硬いものが当たった衝撃で、はっと目が覚める。見覚えのない真っ白い天井と規則的な電子音を、自らの躰で認識することができた。 「ぁ、あ……」  声を出しながら、両手を動かしてみた。左右それぞれの指先は僅かに動かせたが、腕にまったく力が入らない。試しに動かした両足なんて、足首が少しだけ動かせる程度だった。 (どれくらいの間、寝たきりでいたんだろうか。これは時間のかかる、リハビリが必要だな――)  早朝の検温に来た看護師が、覚醒した高橋を見つけるのは、それから1時間ほど経ったあとだった。

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