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光3
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「古川くん、一緒にランチに行かない?」
仕事に集中していると、声をかけながら肩に触れてきた手に驚き、躰をぎゅっと竦ませた。
「ぁ、あの、僕と?」
社内コンペに準優勝してから、女性からのこうしたお誘いが日常化していた。以前の部署にいたままなら、絶対にありえないことである。
「そうだよ。近くにオススメのレストランがあるんだ。一緒に行ってみたいなと思って」
「すみません。今日は、役員の方に誘われているので行けないです」
「だったら、また誘ってもいい?」
「はい、ごめんなさい」
最初のうちは誘われたら断ることなく、黙って連れられていた。
一緒に食事をしたり喋ったりすること自体、敦士に苦痛はなかったが、ただそれだけ。妙に冷めた会話ばかりしていた。
(以前の僕なら、このまま付き合うことを視野に入れてドキドキしたり、脱童貞できるかもしれないなんて、下心丸出しだったはずなのに――)
今や事務的な付き合いにうんざりして、平気な顔で嘘をつくようになってしまった。
名残惜しそうに去って行く、女子社員の背中を横目で見ながら、右手で胸元を押さえる。
わけも分からずに大泣きしてしまった、あの日の夜。あれから敦士の心の中にある大事なものが、空っぽになっていることに気がついた。
感情がなくなったわけではない。嘘をついた罪悪感が敦士の中にきちんとあって、現在申し訳ない気持ちになっていた。
他にも、魅力的だと思うような女性に迫られても、今までのように胸のときめきを感じたり、自分から積極的にアタックする気力が、まったくもって湧かなかった。
そんなことに寂しさを感じたりしていると、どこからともなく男の声が、時々頭の中に聞こえてきた。
『敦士、このまま何もせずに諦めるのか? 毎年チャレンジしているんだろう?』
聞き覚えのない男性の声――この言葉はいったい、いつかけられたものだろう?
『敦士、大丈夫なのか?』
名前を呼びながら心配する声色は、自分の躰をとても気にしているように伝わった。
『よく頑張ったな。偉かった』
笑いながら褒めてくれたみたいな、優しい声だった。何をして褒められたのかは分からないけれど、それでもこの言葉を思い出すだけで、どんなことでも頑張れる気がした。
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