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番外編:貴方に逢えたから4
「そんなわけないだろ。俺はお前だけ――」
「健吾さんの心の中には、僕以外の人がいます」
ぴしゃりと言い放たれたセリフに、ひゅっと息を飲む。
うなされるような悪夢を見たあとに、こうして指摘されたところを考慮した結果、2名の顔が頭に浮かんだ。
ひとりは自分を脅して、本社に引き抜いた牧野。決定的な恐喝の材料を握っていたため、彼が指示する汚れ仕事を苦労してやらねばならず、殺したいくらいに憎い相手だった。
支店に勤める社員に逆恨みされ、刃物によってめった刺しにされて、意識不明の重体で眠りについたことにより、牧野の呪縛から解放されたが、あのときの苦労を考えると、悪い意味で心に残っている。
残るもうひとりは――。
ぼんやりと考えている間に、仕事に行く支度を終えた敦士は、愛用しているカバンを手にして、高橋に頭を下げた。
「健吾さんごめんなさい。さっきの忘れてください」
「忘れろなんて、そんなの」
「僕は浮気なんてしません、貴方一筋ですので。それじゃあお先に」
「おい、まだ7時前なのに出るのか?」
慌てて布団を蹴散らして敦士の傍に駆け寄り、右手を伸ばしたら、ふいっと避けられてしまった。
「ひとりになって、頭を冷やしたいんです。放っておいてください」
空を掴んだ自分の手と、出て行く敦士の背中を黙ったまま、見送るしかなかった。
静かに閉じられた扉はまるで、敦士の心を見えないように隠してしまうものになったのだった。
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