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番外編:貴方に逢えたから7
***
結局いい案が思い浮かばないまま退社し、自宅マンションに向かった。
自分より先に帰っている恋人が、笑顔でいつも出迎えてくれる。しかしながら今朝のことがあったせいで、帰っていない可能性があった。
日常と化している、玄関での抱擁がないかもしれないことを考えただけで、気持ちがより一層暗くなる。
「はあぁ、自分で蒔いた種なのにな。こんなふうに後悔するなら、あのとき全部飲み込んでしまえば良かった」
ぶつぶつ独り言を呟きながら、インターフォンを押した。間髪おかずに、扉が勢いよく開かれる。
「わっ!」
そのことに驚いて後退りをすると、逃がさない感じで躰に抱きつく恋人の姿が、目の前にあった。
「おかえり、敦士」
「た、ただいま……」
「今日は早かったんだな」
柔らかく微笑む表情は、見慣れたものだった。そのお蔭で、緊張していた気分が幾分和らいだ。
「急ぎの仕事があったんですが、投げ出して帰ってきちゃいました。その分、明日頑張ろうと思って」
「だったら敦士が明日、とびきり頑張れるように、美味しい夕飯を作らなきゃいけないな」
抱きついていた片腕が、優しく背中を撫で擦った。
不安なことがあったり、精神的に落ち着かない様子のときにしてくれる恋人の所作が、いつも以上に心地よく身に染みた。
「作ってる最中なら、手伝いますよ」
「急ぎの仕事を投げ出すくらいに、お前は疲れてるんだ。大人しく風呂に入って、リラックスしてくれ。その間に作り終えてやる」
背中を撫でていた手が、家の中に誘うものに変わった。素直にそれに従いリビングに足を踏み入れると、鼻に香ってくる料理の匂いに、自然と口の中に涎が溢れる。
「もしかして、今夜はカレーですか?」
「ああ、もう少し煮込めば完成する。積もる話があるから、先に風呂に入ってくれ」
積もる話という言葉に反応してその場に立ち尽くしたら、事前に用意してあったのか、ソファに置いてあった自分の部屋着や下着を、強引に手渡されてしまった。
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