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番外編:貴方に逢えたから8
「健吾さん……」
「悪いな、もう少し気持ちの整理をしたくて。お前に言うには、いろいろ酷なことがありすぎるから」
形のいい眉毛をへの字にして、済まなそうに告げた恋人に、申し訳なさを感じた。持っていたカバンを足元に置き、手渡された衣類を両手で抱きしめる。
手にした衣類から、なぜだか温かみが伝わってきた。
(もしかしたら健吾さんはさっきまで、これを抱きしめていたのかもしれない。それだけ彼を、僕は追い込んでしまったんだ……)
「僕も今朝はすみませんでした。健吾さんの口から、知らない男性の名前が出てきたのを聞いて、ひどく妬いてしまったんです。『はるくん』って」
「あ……」
秘めていた気持ちをたどたどしく言った途端に、目の前にある顔が、あからさまに狼狽えた。
瞳は潤みながら小刻みに左右に揺れ動き、何かを告げようとする口元は、空気を吸う金魚のように見えた。
「彼は、健吾さんの好きだった人なんですね」
思いきって訊ねてみたら、揺れ動いていた両目が自分を見るために注視される。その視線だけで変に誤魔化さず、真実を教えようとしているのが分かった。
「俺の片想いだった。気がついたら、好きになっていた。以前の俺は恋愛なんて、脳の誤作動から起きているとすら思っていた。自分が恋をするまで、何も知らなかったんだ」
「ふふっ、恋愛が脳の誤作動から起きてるなんて、健吾さんらしい考えですね」
「バカにしていたところがあるんだぞ」
上目遣いで自分を見つめる瞳が、嬉しげに細められた。
「むしろ僕は、そういう考え方ができないので、とても新鮮に感じます」
つられて笑いかけると、頭をくちゃくちゃと撫でられた。手荒なのにどこか優しい感じもあって、されるがままでいてしまう。
「面白がる暇があるなら、とっとと風呂に入ってこい。ほら!」
目元を赤く染めた恋人が無理やり腕を掴んで、バスルームに引っ張った。
自分の発言のどこに照れる要素があるのか分からない状態で、仕方なくシャワーを浴びたのだった。
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