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番外編:貴方に逢えたから26
「奪われた記憶よりも、彼奴との未来を強請るとは。これは想定外だぞ」
「違います! 強請ったわけじゃなくてですね――」
「言葉は言霊。告げるだけで、願ったことになるとしたら?」
創造主は胸の前で両手を合わせて、呪文をぶつぶつ唱えた。すると合わせた手の中が光に満ち溢れて、隙間から青白い輝きが見てとれた。
「私がこの手を開けば、お前が強請った未来を見ることができるが……」
見ると言わせる威圧的なまなざしを受けたが、勇気を振り絞って黙ったまま首を横に振った。
「さては別れることが分かっているから、見たくはないというのか」
「!!」
突き放すような物言いと内容に、躰が一気に強張る。指先から血の気がなくなっていき、どんどん冷たくなった。
(――健吾さんと別れるって、何が原因だろう? 僕に飽きて、捨てられる未来とか? 他には……)
「人は何れ死ぬ。必ず別れが来るじゃないか」
「あ……、確かに」
考えていたこととはまったく違う未来にほっとして、安堵のため息をついた。あれこれ考えを巡らせて混乱しまくっていた頭の中が、瞬く間に静寂に満ちる。
さっきから動揺を繰り返すせいで、夢の中だというのに、自然と疲労していくのがわかった。
「お前、もっと自分に自信を持ったらどうだ。歪みまくった彼奴を正すことができたのは、お前の素直さがそうさせたのだから」
胸を撫で下ろす僕の肩を、創造主は力強く叩きながら微笑みかけてきた。つられるように笑ってみせたけど、ぴきぴき引きつっている感じが頬に伝わってくる。
愛想笑いをしているのは、バレバレだろう。
「あのぅ、えっと――」
褒められたことについて、ストレートに応えたかったが自信がない以上、その通りにはできない。だからこそ、心の中にあることがピックアップされた。
「僕は死がふたりを分かつその瞬間まで、彼の光でいたいです」
言葉は言霊ならば、こうありたいなと思うことを言ってみた。
「光?」
「健吾さんが言ったんです。僕は光だと」
そのときのことを思い出しながら、右手を胸に当てた。
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