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第1話
この世界には男女とは別に性が存在していた。
それがα、β、Ωという名の性だ。
その中でもαとΩは希少で特別な存在とされていた。
αは才色兼備のエリートでありカーストトップに君臨する言わば絶対王者の風貌があった。
それに対してΩはカースト最下位で容姿も能力も劣っている。
それに加えΩはヒートという男を惑わす発情期があり男のΩでも妊娠してしまうという。
男としての価値を失われつつあるΩは絶対王者であるαに逆らう事が出来ない。
そしてαがΩを襲う事件が多発したが、Ωのヒートのせいだと言い訳すれば全てΩが悪いと言われてしまう理不尽な世の中。
生まれてくるならαなんて贅沢は言わないから何の特徴もないが安全なβであってほしいと親は子にそう望んでいた。
Ωは一番人口が少ない性でその次はα、そしてβが一番人口が多い。
今まで混同していた学校で何度か性犯罪が行われた。
それは生徒だけではなく、先生までΩいじめをしていて深刻な社会問題になった。
とはいえニュースのコメンテーター達は議論をするわけではなく「ヒートのせいだ」「Ωが悪い」とそう言っているだけだった。
だからΩ達は結託して抗議デモを始めたりしていた。
その甲斐あってか、5年もの抗議を続けてやっと国会議員達が重い腰を上げた。
そして性によって学校を分ける事で国民を納得させた。
社会に出たら性など混同は当たり前になってしまうが、αは社会に出た後のケアをΩのためにする気はないからその後はまだΩに優しくない世界だった。
それでも子供を一時的でもαから守れるならと親達は喜んだ。
ここまで言うとαが最低最悪のクズみたいだがαが全てそうではない。
Ωに冷たいαだって、所詮はα…妻にΩは当たり前だった。
しかし自分の妻以外のΩに興味はないαは、他のΩがどうなろうと知った事ではない…家族以外にクズだった。
Ωはαに惹かれ、αもまたΩに惹かれる…そして運命の番になる。
Ωのうなじをαが噛めば嫌いな相手でも強制的に番になってしまう。
その番は魂で繋がっていて死ぬまで消える事はないだろう。
つくづくΩには人権も何もない悲しい性なんだ。
俺はΩに偏見はない、いつか運命の番になるわけだし…番と同じ性のΩは皆家族みたいなものだと思ってる。
…だけど、そう思っている俺みたいなαはこの世界には珍しい。
俺の家は代々αばかりが生まれる優秀な家系だった。
だからといって一般的のαのように金持ちとかそういうのではなく普通の家庭だった。
小学校の健康診断の中に性を分ける血液検査があった。
子供本人が知るより先に親に検査結果の封筒が渡され、その後に子供に親から聞かされる。
俺と双子の弟は母に検査結果の封筒を渡した、勿論中身は見ていない…見る必要がないからだ。
俺達はαの一族だからα、そう信じて疑わなかった。
母は父に見せてから俺達に言うと言って部屋の奥に行ってしまった。
焦らさなくても分かっているのにと不思議に思いながら俺は気にしなかった。
そして両親から聞かされ、俺はこの日からαとなったんだ。
小学校はまだ皆一緒だから混同した学校だったけど中学からは専門の性の学校に通う事が義務付けられていた。
勿論俺と弟は当たり前のようにαの学校に通っていた。
でも何故か家に帰ると母が「おかえり」と出迎える前に「大丈夫だった!?」と聞いてきた。
「なにが?」と聞くとホッとした顔をして何でもないと言った。
俺は自分の持病の事だろうかと気にしていなかった。
俺がαだと分かったその日、母は俺に持病があると話した。
命に関わるものではないけど、貧血とめまいを起こすからと青と白のカプセルの薬を白いプラスチックの薬入れに入れて持たせてくれた。
誰にも見せちゃいけない、絶対にと言われていた…よく分からなかったけど母の顔はとても真剣で頷くしかなかった。
毎日一錠薬を飲み込み、学校に向かうのが俺の当たり前だった。
αは才色兼備で美形揃いで俺の弟もそれだった。
なのに俺の容姿は正直普通でβとよく勘違いされていた。
不思議だな、なんで俺は普通とは違うんだろうか。
中学を卒業したあの日もそんな事を考えていた。
勉強も運動も平均だった俺だけど理想のαがいた。
キラキラと輝く髪に、神の化身のような人間離れした超絶美形。
当時小学校でまだ血液検査を受けていない時だった俺だったが全身駆け上がる熱を今でも忘れないだろう。
今思えば、あれは憧れからくる興奮だったのだろうと思う。
Ωならヒートを真っ先に疑うだろうが俺はαだしあり得ない。
とにかく俺は男か女か分からなかったその人に長年憧れを抱いていた。
しかしその人と会ったのは道端で見たそれだけだった。
ちょっと歳が上くらいだから学校も一緒になる奇跡は……起きなかった。
俺が通った中学はαの学校だが田舎くさい場所だった、あんな凄いαがいるわけないよな。
一度しか見ていないその顔は今では薄ぼんやりとしか思い出せなくなっていた、辛うじて髪が銀…いや黒?…あれ?
人間の記憶力はここまで当てにならなくなるのか。
そして高校受験の季節、両親はとても悩んでいた。
何処の高校にするか俺は何処でも良かったから両親に託したが、両親は高校がほとんどが全寮制だからどうしようか相談していた。
これは親元を離れ自立させるために教育委員会が決めた決まりだそうだ。
俺は別に一人でも大丈夫だと両親に言うが両親はただ苦笑いするだけだった。
家事はなるべく母のを手伝っていたが、信用出来ないほどダメダメだったのかと密かにショックを受ける。
俺より弟の方が心配だと思うんだが、家族にまだ甘えていて俺の指をもごもごと咥えているぞ?
一度赤ちゃんみたいだなって言ったら思いっきり指を噛まれて二度と言うまいと血を流しながら決意したのは記憶に新しい。
そしてやっとここならいいと両親が決めたところは一人一人個室の城のような大きな建物の寮の写真がパンフレットに載っていた。
そこは国内一偏差値が高い名門私立高校だった。
学費も高いし俺の頭で入れるか不安だったが両親は「蒼のためならお金の心配はいらない」と言った。
俺は両親が頑張るなら自分も頑張ろうと決意して勉強した。
そして本日、俺は月岡 学園に入学します。
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