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第2話
偏差値80超えの超エリート名門私立高校月岡学園。
男女共学校だが生徒教師などは全てαのまさにβ、Ωの憧れの学園だ。
その証拠に普段は怖くてαだらけの学校に見る影もないΩの学校の制服の子がチラチラといる。
……いや、さすがにΩがいない学校なのに居すぎじゃないか?
なんでこんなにΩの生徒がαの学校の門を覗き込んでいるんだ?
その場に溶け込みすぎて一瞬αかと思ってしまった。
Ωは自分のうなじをαに噛まれないように首輪を付けている、だからΩは見れば分かる。
立ち止まり驚くのは俺と同じ紺の真新しい制服に身を包んだ生徒だ。
上級生らしき生徒は慣れた行動なのかΩの生徒を無視して門をくぐっていく。
俺も行こうと歩きだしたところで背中に強烈な衝撃が加わった。
「おっはよ!俺!古賀 譲 よろしく!良かったら友達になってね!」
「………」
「あれ、なんでそんなところで寝てるの?」
「君が俺に体当たりしたからじゃないのかな」
古賀と名乗った男は俺に謝りながら助け起こしてくれた。
顔面から地面に激突したからか顔が痛い…特に鼻が…
古賀は怒られた犬のようにシュンと反省していたから怒るのを止めた。
反省してるし、古賀は友達がほしくて少し力加減が強すぎただけだと思う事にした。
俺も不安だったし、古賀の気持ち分からなくはない。
制服に付いた砂を払い、古賀に手を差し出した。
「立花 蒼 、よろしくな古賀」
「譲でいいって!俺も蒼って呼ぶし!」
「…そ、そうか」
二パッと満面の笑みで笑う譲に俺も自然と笑みが出来る。
古賀はまだ沢山いるΩの集団を不思議そうに眺めていた。
中学の頃はこんな事なかった…あの子達、自分の学校はいいのだろうか…
αの学校なんて珍しくもないのに、まぁここはその中でも別格だが…
それともこの学校に運命の番でもいるのだろうか。
ヒートが発生する思春期の頃から番を作る人も珍しくないからそれなんだろう。
古賀はあの子可愛い、あの子も可愛いと眺めていた…番探しか…お盛んだな。
俺は永遠を共にする番だ、ゆっくりじっくり人生をかけて探したい。
「古賀は知ってるのか?Ωがこんなに集まってる理由」
「近くにΩの学校があるからじゃないの?」
「えっ!?いいのかそれ?」
古賀の話によると近くと言ってもバス停二つ分離れているところにΩの学校があるらしい。
法律では学校を分けるだけで近くに建てちゃいけない法律はない。
しかしそれだといつ問題が起きるか分からないではないのか?しかも何故か被害者になりえるであろうΩがこんなに沢山…意味が分からない。
この月岡学園はそれなりの身分が高い生徒が多く通っているが、ヒートのΩを前にしたαの理性はとても脆いものだとテレビでやっていた。
俺もあんな獣みたいになるのかと怖くなっていたな、昔は…
でも運命の番が見つかればその番以外のヒートは効かないと知りホッとした記憶がある。
αの学園だし滅多にヒートにはお目にかかれないだろうし、その間に番を作ればいいと思っていた…これを見るまでは…
「と、突然ヒートしたりしないよな?」
「薬飲んでる筈だから大丈夫じゃない?」
Ωはヒートを抑える抑制剤を病院から無償で提供される。
それを飲むとヒートを一時的に抑える事が可能だ。
しかし本当に一時的なもので毎日飲まないと効果がなくなり、飲み過ぎも身体に悪いとされている。
俺も薬を毎日飲んでいるが俺の持病とは違うからΩは大変だなといつも思っている。
俺の家系は全員αだから抑制剤がどんなものか見た事がない。
俺の薬は寮にいる間、毎月母に送ってもらう事になっていた。
なにかあったら必ず電話する事を強調され俺を見送る母を思い出す。
ヒートに怯えるな、そうだ…俺は一人でも大丈夫だって…そう両親に見せるんだ。
Ω達から離れて大きな校舎に向かって歩いていく。
あれが校舎?嘘だろ?あんなテーマパークの城みたいなの見た事ないぞ?
「俺ってαだからそこそこ顔はいいけど蒼って凡顔だな、本当はβだったりして!」
「俺の人生、何度も言われ慣れたけど俺の家…αの家系なんだよ」
「あー、じゃあαだわ!」
性は血液型と一緒でαとαの子供はαしかあり得ない。
だから俺はαだ、それは誰もが疑わない絶対なんだ。
譲も納得したようで俺とID交換しようとスマホをカバンから取り出しだ。
不安だった高校生活、早速初めての友人が出来た。
校舎の中に入ると真っ白な壁にシャンデリア、柔らかい真っ赤なカーペットが敷き詰められてる廊下に驚く。
何処の王宮だよ…とツッコミを入れたくなった。
落ち着かない気分を紛らわすために譲と出身中学の話をして盛り上がった。
譲が俺の出身中学を聞き「あの田舎中学かぁ」と失礼な事を言うから睨む。
確かに田舎中学だが、出身中学でもない奴に言われたらなんか腹が立ってしまう。
そりゃあ譲が通ってたそこそこいい中学よりは一部劣るけど、よく言えば自然豊かな中学校だ。
それにαの通う学校なんだから中身は一緒だと思う。
急に黙る俺に譲は慌てた顔をして「田舎中学でも空気美味そうじゃん!」と変なフォローを入れている。
なんか憎めない譲に苦笑いして怒るのを止めて田舎中学でもいいところは沢山あると熱弁した。
そして廊下の壁に貼られた紙に書かれたクラス表を頼りに自分のクラスを目指す。
三クラスあり、俺と譲は運よく同じクラスになった。
教室に入ると生徒の半分以上が窓に張り付いて見ていた。
きっと門前にいたΩの集団でも見ているのだろう。
エリートのαなのにあんなに大量のΩは見た事がないのだろう、興味津々だった。
しかし外でΩを襲う騒ぎなんてしたらαのエリート人生を狂わせてしまうからやらないだろう。
誰も見ていないところで何しているかなんて分からないけど…
αだって一人の男だという事なんだろうな、同意があるなら別に構わないけど。
この学校には女の子もいるのに…まぁエリートの娘とか一番軽く手を出しちゃいけない相手ではあるな。
あ、そうだ…後で持病の薬飲んどかないといけないな。
まだ今日の分を飲んでいなくて入学式が終わってからでいいだろうと思っていた。
自由に席に座っていいみたいで俺は後ろの窓際、譲は俺の隣に座った。
高校生活は誘惑の連続だと中学の同級生達と話していた。
まだ子供だから運命の番とか気にせず気軽に付き合ったり大人の真似事なんてしたりして今から楽しみで昨日の夜は一睡も出来なかった。
だから今、朝陽が差し込みポカポカ陽気に目蓋が重くなる。
窓際にしたのは間違いだったか、眠い…ちょっとくらい仮眠してもいいよな。
「蒼!もう移動だってさ!」
「…んぁ?あ、うん」
結局一睡も出来ず譲に揺さぶられて重い身体を起こして大きな欠伸をする。
これで眠気が覚めればいいけど、くっつきそうな目蓋を必死に上げる。
そんな俺の努力は虚しく入学式はほとんど熟睡で終わった。
最初は頑張って起きようとしてたよ、でも睡魔には抗えなかった。
終わったタイミングで譲に肩を叩かれて起こされた。
やっぱり椅子で寝ると寝た気がしないな、余計疲れた気がする。
もう帰るだけだし、後は寮の自室でゆっくり寝るかな。
確か今日は入学式だけだったからこの後は解散だろう。
また一つ大きな欠伸をして、譲と一緒に廊下を歩く。
あ…そうだ、薬飲まなきゃ…これだけは絶対に忘れてはいけないと両親に散々言われている。
「この後飯食いに行こうぜ!」
「飯って、何処で?」
「学園の食堂だよ!月岡学園の食堂すげぇって評判なんだよ!」
へぇ…それは行ってみたいがエリート高校だし、値段高そうだな。
俺は一般家庭だし、仕送りは貰ってるけど無駄遣いしたくないな。
一番安いものを頼んでそれから今後を考えよう。
その前に薬を飲もうと思い譲にトイレ行ってくると伝えて近くのトイレに入った。
母に言われた通り譲にも知られちゃいけないよな。
トイレに誰もいない事を確認してから扉を閉めた。
この薬は水なしで飲めるから何処でも飲み込めて楽だ。
それに食前とか食後はないからいつでもいいのもありがたい。
制服の内ポケットに入れていた四角い小さなプラスチックの容器を出す。
最近いつも使ってる白い容器を無くしてしまい代用品として透明の容器を使ってるが、特に何も不便はないからそのまま持ってきていた。
薬入れの中から一粒カプセルを取り出し口に含み顔を上に向けて飲み込む。
ゆっくりゆっくり喉を上下に動かし、一息つく。
「…ふぅ、よし!」
これでめまいや具合悪くなったりしないだろう。
言われてから毎日欠かさず飲んでいたからそんな症状になった事はないけど、誰かに迷惑掛けたくないから俺は疑わず毎日コレを飲み続けている。
ふと鏡に写る自分の姿を見つめる、そこには何の変哲もない俺の顔が写っていた。
本当に誰が見ても完璧なほどのβ顔で苦笑いする。
俺は本当にαなんだろうか、αだと言われたあの日からたまに考える疑問。
そんなくだらない事を考えないようにして話題を逸らす。
もう少しでなくなりそうだなとぼんやりと容器を眺めながら考えて、内ポケットに入れようとしたらトイレのドアが開いた。
「もう終わったー?」
「あっ、譲」
ずっと待っていたのか譲がトイレのドアから顔を出した。
俺は譲の方に振り返ると手に持っていたものが指からするりと滑り落ちる。
カンッと固いタイルにぶつかりそのまま誘導するかのように譲の足元に滑っていく。
気が抜けていて拾うのを忘れてそれを呆然と眺めていた。
譲はしゃがみそれを拾い上げて透明の容器の中身を見つめた。
母の言っていた事は本当だったのだと譲の顔を見れば分かった。
顔面蒼白の譲は震えた手で俺に薬入れを差し出した。
「…蒼、これって」
「譲、いったいどうしたんだ?」
俺までパニックになりそうなのを抑えて譲に聞く。
譲がこんな顔をするなんて、この薬はいったいなんだ?
わけが分からなくなり、指先から冷たくなるのを感じた。
俺の手もいつの間にか震えていて、拳を握りしめる。
譲がこうなった原因、知りたくないと心の中の俺は叫んでいた。
でも、知らなくてはいけない事なんだとそう思った。
「お、れの姉ちゃんがΩなんだよ…だからこの薬…見た事あって」
え…譲のお姉さん?薬とΩは関係ないと思うけど…
だってこの薬は俺の持病を抑える薬だって母に渡されて…
持病?何の病気?今まで少しでもなにか症状があった?…俺は、病気?
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