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第1―1話
それはエメラルド編集部の校了明け。
屍だった者共がファッション雑誌の表紙を飾るモデルのようなイケメンに戻った10月のある日、編集長の高野も会議でいない平和な午後に、美濃の一言から始まった。
「東京でさ、観光地って訳でも無くて、良い夜景スポットってないかなあ?」
「東京じゃなきゃダメなの?」
木佐がドラ焼きを食べながら訊く。
「うん。クリスマスネタなんだけどさ、わざわざ地方まで行く感じじゃなくて、都内を通り抜けたら、あれこんな所が…みたいなサプライズって言うか…」
「好きな人のお気に入りの秘密の場所的な感じか?」
羽鳥が端正な顔を美濃に向ける。
「そうそう!
だから大袈裟じゃないのがいいんだよ~」
「あっ!!」
それまで黙っていた小野寺が声を上げて、3人の視線が集中する。
「律っちゃん、心当たりあるの?」
木佐が小野寺にドラ焼きを差し出しながら言う。
途端に小野寺は真っ赤になって、ドラ焼きを受け取ると、あーとかうーとか言いながら俯いた。
「これはあるね!!
律っちゃん、吐きなよ~。
吐けばラクになるよ~」
ニヤニヤ笑いの木佐に、美濃がいつに無く真剣な声を出す。
「小野寺、知ってるなら頼む、教えてくれ。
重要な場面なんだ。
でも東京の夜景スポットって大抵観光地化されてるだろ?
俺も…先生まで一緒に探したけど、コレって場所が無くて困ってるんだ」
「……」
「律っちゃ~ん。美濃様に恩を売るなんてそうそう無いよ?
黒い事が起こったら絶対助けてくれるから!」
「木佐、黒い事って何だ。
困った事だろう」
「羽鳥は分かって無いねー。
黒い事は黒い事なんだよ。
つかそれより律っちゃんだよ!!
律っちゃ~ん、教えてあげなよお」
小野寺は真っ赤な顔で俯いたまま、小さく言った。
「俺も寝てたら着いてたので、詳しい場所は分かりませんが、ナビでチラッと見た住所なら…」
「それなら検索すれば分かるよ!
ありがとう小野寺」
美濃は心底ホッとしたように言って、メモを片手に小野寺のデスクに走った。
小野寺はトイレの鏡の前でため息を吐いた。
美濃は小野寺のうろ覚えの住所から、一発でその場所を探し当てた。
パソコンに映り出される画像は夜景では無かったが、美濃は気に入ったらしく、直ぐに担当作家にメールしていた。
木佐も羽鳥も良い場所だと美濃のパソコンの画面を見ながら、ウンウンと頷いていた。
大丈夫だ!
大丈夫だ!
大丈夫だ!
高野さんと俺さえ言わなきゃ、あそこが昨年のクリスマス・イヴに高野さんと俺が二人で行った場所だとは分かるまい!!
しかもいつものように流されて、カカカカーセックスしてしまった場所だとは…!
いくら高野さんでもそんなことは絶対言わないはず!!
…クリスマス・イヴ…
高野さんの誕生日。
今年も俺は逃げられないだろう…。
でも!!
絶対去年の二の舞にはならないからなっ!!
小野寺は鏡に映る自分を励ますように、胸元で握り拳を作る。
そう、小野寺のクリスマスは既に始まっていたのだ。
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