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1 〜ヌン〜
おれは172cmヒョロ気味の地味顔であだ名は目細くん。特技は空気になる事。
でも気が向いた時には整形メイクで雰囲気イケメンw アイプチサイコー!
ちなみに20歳の大学生です。
渋谷でイマイチだった飲み会を抜け、どこかへ遊びに行こうかとメイクしてトイレから出た時でした。
突然の土砂降り。
ゲリラ豪雨!?
でも今、冬…のはずなのにあまり寒くない…
そしてトドメは真っ暗闇!!
「うぅ…」
メイクが崩れる!って心配してたら足元からうめき声が聞こえた。暗くて見えない…現代日本にこんな闇が存在するのか!?まさか大規模停電???
いや、車のライトもないなんてあり得ない…。
「だ、大丈夫ですか?」
とりあえずしゃがみ込んで声をかける。
何も見えないと平衡感覚がおかしくなって怖いよね。
「…あ、あぁ… すぐそこに…岩穴があるから… すまないが、そこへ…」
「…岩穴?」
そんな物が渋谷にあるはずがない。
あ、洞窟バーとかテレビで見た事ある…って無理だ。そんな事で自分を誤魔化す事はできない!だって地面がでこぼこでぬかるんでいる。駅前のトイレから出て来たはずなのに舗装されてないはずないから!
とにかくこんな土砂降りではスマホを出す訳にもいかないので声を頼りに近づき、話しかけた。
「あの、具合悪いんですか? 立てますか?」
「…すまない。野盗に襲われて何とか追い払って逃げて来たんだが、限界だ。身体が動かない。」
「そうですか…助けたいのは山々なんですが、こんな暗闇で土砂降りではその岩穴という所も分かりません。どうしたら良いんでしょう?」
「岩穴の中には必要最低限の物が置いてあるから、中に行ければ灯りも点けられるんだが…」
「岩穴…あ!おれライト持ってた!!」
鍵穴を探すためにキーホルダーについているソーラー式LEDライト。
スイッチを入れて辺りを照らすと、周りを木々に囲まれた森とゴツゴツとした岩?崖?にツタが絡まっていた。
…ここ、ぜったい渋谷じゃない。
「岩穴が見当たりません。」
「ツタで隠してあるんだ。かき分ければ入れる。」
とにかく雨を避けたい一心で岩穴とやらに近づき、中を照らすと奥の方に続いているように見えた。
暗くて怖いけど、誘い込まれるように中へ入ると奥まった所に箱が見えて、壁のくぼみにロウソクらしき物が置いてあるのに気がついた。
てってれー!
ジッポーライター!!
こっちは雰囲気イケメンの小道具として持ち歩いています。
しゅぼっと小さな音を立てて火をつけ、ロウソクに灯をともす。都会育ちのおれには光量が足りないが、闇に目も馴れて来たのでワンショルダーのバッグを置いてさっきの人を助けに行く。
「うぐぅ…」
「非力ですみません!頑張りますから!!」
「い…いや…ありがとう…あと少し…」
仰向けに転がったこの人の両脇の下から手を入れ、胸の前で手を組んで引きずる。最後は一緒に横向きに転がって雨が当たらない所まで文字通り転がり込んだ。
しばし2人で荒い息を整える。
「ハァ…ハァ…このままでは風邪をひく。奥に薪があるから…済まないが火をおこしてくれないか?」
「薪…、やって見ます。」
奥へ行って薪を見つけ、戻ってライターで炙る。
じりじりじりじり…じぶじぶじぶじぶ…
結論、ライターで薪に点火は出来ません。
「…貴族か何かか?」
「平民です。」
「平民なのに薪に火がつけられない?だがその小さな火は?…さっき外で急に光ったのは一体なんだったんだ?」
「え?ライトですよ。LEDライト。」
「…ライト?」
あっれー?
言葉が通じるのに通じない。なんでだろう???
「…薪の側にもっと細い薪と小枝があっただろう。それに落ち葉。」
「えっと、これですか?」
ゴミかと思ってスルーしていた物を取ってくると火の付け方を教えてくれる。
まず小枝を互い違いにおいてそこに火をつけた落ち葉を差し込む。小枝に炎が移ったら細い薪に火を移す。そしてさっきの薪に火を移した。
一晩火を焚くなら、と更に薪を側に置き、後で少しづつ燃料を追加する準備をした。
ふと見ると、目の前の人はうつ伏せのまま少し顔を上げてこちらを見る。流し目がヤバい。
超美形じゃないですかー!!
だいぶ汚れてるけど。
色合いは分からないけど、彫りが深くてイケメンで言葉が通じる、ってどこのファンタジー?
おれの雰囲気イケメンが恥ずかしくなる。かなり汚れてるのにこのイケメン具合ったら!
「怪我してるんですか?」
「いや…疲労が限界を超えただけだ…明日には動けるようになるだろう。」
「野盗に襲われた、んでしたっけ?」
「そうだ。幼なじみと共に商品の買付けに行った帰りに襲われて…」
「えっ!?その幼なじみの人は!?」
「……あいつは……」
まさかこの人を逃がすために…?
「俺を囮にして逃げた。」
そっちかい!!
「そう言えば自己紹介もしていなかったな。私はジェミル、18歳だ。」
まさかの歳下!
同じか年上だと思ったのに…
「おれはミチル。20歳の学生です。」
五百蔵 満 、って強欲過ぎじゃね?と思っているので異世界なら家名は無くて良いはず!と勝手に決めつけて名前だけ名乗る。
「ミチルか、良い名だな。それにしてもそうは見えないが20歳?で学生?学者の卵か?」
俺の居た国では22まで学生なのは割と普通の事だと言ったらどこの国かと首を捻っていた。気にしない、気にしない。
狭い岩穴は焚き火ですぐに暖まり始めたけど、服が濡れててだんだん冷えて来た。
「濡れた服を乾かさないと風邪をひくな。」
「服、脱ぎますか?」
「…手伝ってもらえるか?」
「あはは、良いですよ。」
まずはおれが服を脱ぎ、ヒートテックの肌着とパンツになった。それからジェミルの服を脱がせると…ズボンだと思っていたものが1枚の布だった。よくこんなで落ちないな。
そして衝撃の事実! ぱ、ぱ、ぱ…パンツが紐パン…!?
ジェミルは着痩せするようで、服を剥ぎ取ると中々の筋肉が現れた。
「…っう、はぁ…ありがとう…」
紐パンのみの超美形が痛みに喘ぐとかヤバい!
「奥に着替えがあったと思うんだが…」
良い歳して秘密基地…?
まぁ良い。
だって憧れてたもん!秘密基地!!
奥の箱の中には籠があり、その中に畳んだ布が入っていたのでとりあえず持っていく。
見てもらったらやっぱりそれが着替えだったようだ。でも布だけ。
着付けが分からないし、起き上がるのも辛そうなので目の毒な腰にかけてあげた。
「岩に直接座るのでは辛いだろう。奥に草を編んだマットもあるはずだ。自由に使ってくれ。」
「いつもは奥を使ってるんですか?」
「そうだ。こんな浅い所にいたら明かりが漏れて見つかるだろうからな。」
「え!? 今…は、良いんですか?」
「この雨だ。外をうろつくヤツなんていないさ。」
自嘲気味に説明してくれる。
2枚のマットを持って来て横になる。
そうだ、色々教えてもらおう。
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