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2 〜ソーン〜

「実はおれ、迷子みたいなんですが…ここはどこですか?」 「迷子…?あぁ、だからこんな所に居たのか。街道からは外れているし、目標になるものもないこんな所に居るなんて不思議だったんだが、そう言う事か。」 不審人物にせっかくの秘密基地教えちゃって良いの? お人好しすぎる超美形って心配…。 「そう言えば服も変わっているな。」 「そうですか?おれのいた所ではごく普通の服装ですが。」 「その服が普通…どれだけ遠くから迷い込んだんだ?」 うーん…どれくらいだろう? ちなみに国の名前を聞いたけど覚えられなかった。 喉が渇いたのでまだ降り続ける雨を木の桶で集めて水を飲んだ。浄化作用と抗菌作用があると言うこのツタの蔓を伝って落ちてくる雨水はとても美味しかった。 おれたちはそのまま眠り、朝を迎えた。 雨はすっかり上がり、爽やかに晴れている。 桶から水を汲んで飲み、ジェミルにも持って行ってやる。 「おはよう。身体の調子はどう?」 「…あぁ、ミチル… ぅぐっ!!」 「大丈夫!?やっぱりどこか怪我したんじゃ…」 「…いや、これは……… 筋肉痛だ。」 目の前に 筋肉痛の 男前 いや、だから何だって話だけど。リズムが良かっただけ。 お腹が空いたけど食べ物を置くと動物を呼び込んでしまうのでここにはないと言う。せめてものカロリー補給としてバッグに入っていた飴を分けてあげ、部活で教わった強ばった筋肉を解すマッサージとストレッチをしてあげたら随分良くなったらしい。痛がりながらも歩く事ができるようになった。 器用に1枚の布をズボンにする。おれも自分の服を着た。ジェミルの動きがまだまだぎこちないけど、野盗が出るのにこんなんで大丈夫かな? 「腹も減ったし、今のうちに急いで町へ行こう。」 町には警備隊もいるから近くまで行けば何とかなるらしい。 それに街道で馬車に乗せてもらえれば更に良い、との事だった。 ヒッチハイクだ! たまたま持っていた空のペットボトルがバッグから出て来たので飲み水を詰めて出発! あ、歯磨きできないからガム噛みながら行こう。 外に出て明るい日差しの中で見たら、ジェミルの髪は銀色で、瞳の色が淡いグリーンだった。 しばし見惚れる。 「あ…その…ミチル…こんなに…その…」 何故か顔を赤くしてモゴモゴ言うジェミル。 何がどうしたんだろう?こんなに美形なのに見惚れられるの馴れてないとか? あ、メイクしたままだから少しはイケてるって思ってもらえてる? どうしよう、化粧を落すべきか否か… 携帯用のメイクセットしか持ってないからアイプチが何日分あるのか分からない。でもこんな美形におれなんかのスッピン見せたら…失笑間違い無し! うん、とりあえずこのままで。 スッピンカミングアウトはもう少し後にしよう。 「ね、急いだ方が良くない?」 「そ、そうだな。まずは街道に…いたた…」 おおう、関節がぎぎぎと音をたてそうだ。ほんとに大丈夫かなぁ? 途中で食べられる木の実を教えてもらって採って食べた。みずみずしくて柔らかくて甘い。見た目はリンゴで瑞々しさと食感は洋梨。うまー!名前はリラだって。 モタモタする、って嫌がる人がいそうな感じの食感だけど、おれはボケたリンゴが好きだから大歓迎です。 余分に採ってバッグに入れて持って行く。 1時間ほどで街道に出た。石畳の道だ。そこで少し休憩する。 「ジェミル、身体はどう?またマッサージしてあげようか?」 「いや、それは申し訳ない…」 「世話になってるんだし、これからも…その…もう少し世話になりたいから…あ!迷惑だったらしつこくしないからね!」 「迷惑だなんて!ちゃんと生活できるように手伝わせてくれ。」 「ありがとう、ジェミル!」 肩や腕、足をマッサージしていると、幸運な事に馬車の音が聞こえて来た。 なるべく遠くからでも見えるように立ち上がって手を振る。 「すみませ〜ん!!」 ぶんぶんと手を振っていると、馬車はスピードを緩めて止まってくれた。 馭者さん…ジェミルに良く似た美形だけど顔に模様が描いてあってビビる。 あれ?もしかして昨日のジェミルの顔の汚れって化粧崩れ? 「どうし… って!! なんだ!? アンタこんな所でどうしたんだ!?」 馭者さんの勢いにもビビる。 「あ? あの…」 「この人は迷い人だ。そして私は昨日、野盗に襲われて…。」 「じゃぁ、こっちの美人だけ助けるか…。ここ乗ってよ。」 美人ておれの事? だとしたら欲望に忠実だなぁ。 「申し訳ありませんがこの人と一緒でないと不安なので、他の馬車を待ちます。」 顔で選別するような事言うからちょっと苛ついて、営業スマイルで断った。 「えっ?いや、他に馬車が通らないかも知れないよ?それにここにはもう1人しか乗れないから…」 「おい!どうしたんだ?」 馬車の中から声がした。 「申し訳ございません!迷い人と平凡顔が町まで乗せて欲しいと言うんですが…」 「迷い人だと?」 興味を持ったようで“ご主人様”が馬車の窓から顔を出した。 この人も顔に模様が…化粧か…でも馭者さんよりは模様が小振りかな? それにしても、みんな顔が同じように見える…あれかな?外国人は見分けがつかないってやつかな? 「こ…このお方は!!」 何なの?なんか反応が大げさでビビるんですけど? 「町までですか?ええ、かまいません!ぜひ馬車にお乗り下さい!いえ、どうか乗って下さい!!」 「でも連れがいるんです。身体が痛くて上手く動けない連れが…」 「座る事は出来るんですね?ならばそちらは馭者台でも?」 ジェミルを見ると頷いたのでほっとして“ご主人様”に向き直る。 「ミチルと申します。ご親切ありがとうございます。」 ジェミルに手を貸し、立ち上がらせるとなんとか自力で馭者台へ登った。馭者さんががっかりしているんだけど、そんなにおれと並んで座りたかったの?男同士だよ?でもよろしくお願いします、って笑顔で言ったら真っ赤になってたからゲイかも知れない。 馬車は屋根が高くて快適。…4人は余裕で乗れる広さです。ジェミルもこっちに乗れたんじゃ…?まぁ、何か思う所があるのか…。あ、乗り物酔いするとイヤだから“ご主人様”の隣に座っちゃったけど良かったのかな? それにしても外気温が上がって来たせいで冬物を着たおれには暑い。ヒートテック暑い。 「すみません、上着を脱がせてもらっても良いですか?」 「ももももちろん!お楽になさって下さい!」 バッグとコートを向かいの座席においてジャケットを脱いでシャツも脱いじゃえ!Vネックのヒートテックだから脱いでもシャツにしか見えないだろう。 「乗せていただてありがとうございます。助かりました。」 「いやいや、あなたのような美しい人が隣に座って下さるなんてこの上ない幸せです。私の方が感謝申し上げます。」 「そんな大げさな…あなたの方がずっと整っているではないですか。」 歳は取ってるしおじいちゃん喋りだけど、ロマンスグレーのおじさまだよ。 「私など化粧無しでは外に出られません!あなたは化粧もせずにそこまで美しいと言うのに…」 いや、これがっつりメイクしてるよ? でも顔に模様を描くのがこっちの“化粧”なら、おれのはナチュラルメイクだな。うぅ…スッピン見せられない…。 「申し遅れましたが私、商人のカドリと申します。町ではそれなりに名が知れておりますのでいつでもお訪ね下さい。」 そう言って顔に書かれた紋様と良く似た紋章が刺繍されたハンカチを身の証としてくれたのでお礼を言って受け取った。

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