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3 〜サーム〜
横から視線を感じる…
カドリさんがちらちら見てるよー。気になるよー。
「あの…?」
ぐ~~~~きゅるるる~~~~…
果物しか食べてないから、お腹が盛大に鳴った…恥ずかしい…
「これは気が効きませんで申し訳ない!すぐに食べ物を…」
「うぅ…申し訳ないです。あの…ジェミルにも分けて頂けますか?」
「もちろん。おい!馬車を停めろ。」
カドリさんが馬車を停めて、荷台から携帯食料を出してくれた。
「町に着けばちゃんとした食事をご用意できるのですが…」
「充分です!ありがとうございます!」
携帯食料はドライフルーツ入りのショートブレッドと干し肉。…美味しいけど喉渇くなぁ。
ペットボトルを出して水を飲む。
あ、ジェミルにもあげよう。
馬車の前方の小窓を開け、ジェミルに声をかける。
「ジェミル、喉渇くでしょ?水あるよ。」
「でもミチルだって…」
「おれも飲むから分けっこね。1人で全部飲むなよー。」
くすくす笑いながら手渡すとジェミルは苦笑いで受け取った。
2回受け渡しをして食べ終わった。干し肉は硬くてゆっくり噛むのでお腹が膨れる。
「カドリさん、ありがとうございました。」
「その水入れは美しいですな。見せていただいても?」
「ええ、どうぞ。」
もしかしてガラスが貴重な世界?
「なんと軽い!しかも不思議な手触りですな。一体何からできているのでしょう?」
「ええと…分かりません。この容器に飲み物を入れて売られていますが、作るところは見た事がありません。樹脂だと聞いたような気もするのですが…」
あれ?石油だっけ?
「樹脂…全く見当もつきませんな。」
「恩返しもしたいのに、お役に立てず申し訳ない…」
「恩など!こうして貴方を間近で見ていられる事が至福なのです!」
「でもあんまり見られると恥ずかしいです。」
ペットボトルまだ使えそうだからあげられないし、あざとく頬染めて顔を背けて胸元を押さえる。チラ見してたよね?
「そそっそこばかり見てた訳では…」
「ぷふっ…冗談ですよ。肌着になるなんて失礼でしたね。」
肌着が見えないよう、シャツを着てボタンを留めた。
「あぁ…」
がっかりするカドリさんもゲイなの?
いい歳したおじさまが面白すぎる。
「カドリさん?」
腹チラッ
「ぶふぉっ!」
もう一回。
「ふぁぁっ!」
おれなんかの腹でこの反応…こんなかっこいいおじさまなら色仕掛けもあるだろうに…楽しくなってきた。
「町が見えて来ましたよ。」
馭者さんが声をかけたのでカドリさんへのイタズラはお終い。
すぐに町について事情を説明するため警備隊の詰所に行くから、と門のところで馬車を降り、カドリさんと馭者さんにお礼を言って別れた。
「夜盗による被害報告はこちらの部屋で、貴方はこちらで事情をお聴きします。」
「あのう、一緒ではダメなんですか?」
「何か問題が?」
「右も左も分からない場所で知り合いになった希少な友人と離れるのは、その…不安で…」
「犯罪者ではありませんので、お2人とも同じ部屋でも構いません。おい、副隊長を呼んで来い。」
呼ばれた副隊長も顔に紋様が描いてある。
でもごくシンプルな紋様が左の頬に描いてあるだけ。何か意味があるのかな?
副隊長を待つ間にジェミルがトイレに行って顔を洗って紋様を描いて来た。ジェミルの紋様は派手だ。
「その顔の模様…どんな意味があるの?」
「!…本当に遠くから来たんだな。」
顔の模様には血筋を表す紋様が描かれているらしく、両親の模様を組み合わせるのだそうだ。場合によっては祖父母も組み込む事もあるが、そちらは好みらしい。
「個性を出すために描くんだ。」
個性…そう言えばみんな整ってて似たような顔をしてる。いかにも同族って感じ…
「ミチルは化粧なしでいられるから分からないだろう?」
そんな辛そうに言われたら、がっつり化粧してますとか、すっぴんはとても見せられる顔じゃないとか…思わずバラしてしまいそうになるじゃないか。
うん、カミングアウトするなら今かな?
「おれ…化粧してます。これは整形メイクと言って元の顔を別人のように整える化粧なんです。」
誰も信じてないな。
「顔、洗ってきますね。」
どれだけ馬鹿にされるだろう?
騙していた事を責められるかな?
情けないけどこれからを考えると同情されるくらいの方が良いのかな?精神的にはかなり辛いけど…。
クレンジングシートでメイクを落とし、オールインワンジェルで肌を整え、気合を入れる。
ジェミルは優しいから大丈夫!
自分に言い聞かせながら部屋に戻った。
「戻りました。」
「「「!!!」」」
あぁ…、驚かれてるなぁ。
胸が苦しい…
またここでも馬鹿にされるのかなぁ……なんで誰も何も言ってくれないんだろう?
「あの…?」
「「「なんて個性的なんだ!!」」」
全員が同時に叫び、ジェミルに手を握られた。
「こんな顔貌 は見た事が無い!」
「薄い眉、細い目、小さな鼻、薄い唇、細い顎!目の上のシワも無いじゃないか!!」
「いっそ神々しいと言うべきでは?」
目の上のシワって…一重まぶたと言います。
違う!奥二重!!折り畳まれてるの!
アイライン4mm幅くらい描かないと出て来ないだけなの!
棒人間に顔描いてやったぜ!って感じの手抜き顔とか埴輪顔とか言われてたこの顔が…神々しい?
大仏顔?
「…この顔、酷くないですか?」
ブサイクじゃない、と思いたいけど、ある意味個性的だよね、って言われた事もある。でもそれがこの人達の中では持て囃される?
「結婚してくれ!」
「隊長!?」
「貴方のためならサキになっても良い!頼む!!」
「なら私だって!」
「俺が最初に会ったんだ!」
なんかカオス?
この国、男同士でも結婚するのか…。
でもサキって何だろう?
「すみません、よく知らない人と結婚はできません。あと、その…サキって何ですか?」
水を打った様に静まり返るとはこの事か。
イケメン達の目が点になってる。
「サキを知らない?あ、言い方が違うのか。サキは子供を産む人だよ。」
それは女性で…さっき隊長が『サキになる』って…
落ち着いて説明をしてもらったら、この国(と言うかこの世界)では、生まれた時は全員男で第1次性徴で精通、第2次性徴でサキに、つまり孕めるようになる。
自然にサキになる人と、なろうとしてサキになる人がいる。サキになると背中に赤い花模様が咲くので「サキ」と呼ばれているそうだ。
…異世界にもほどがある。
「サキも知らないほど遠くから来たならしばらく監視が必要だな。」
「どうしてですか?」
「貴方にとって何でもない事でトラブルが起きるかもしれない。私が側にいればそれが回避できる。」
「あんた上手いこと言ってミチルを側に置きたいだけだろう!」
隊長とジェミルが言い合いを始めてしまった。でも一理あるな。
「ジェミルに泊めてもらう気でいたけど、隊長の口利きで部屋借りられるならその方が良いかな?」
「イヤだ!うちに泊まってくれ!」
ジェミルの迫力にお、おう…ってなる。
とにかく先ず事情聴取してもらって、ジェミルとこれからを話し合おう。隊長の申し出も有り難いから選択肢にいれておこう。
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