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4 〜シー〜

野盗についての事情聴取はさっくり終わり、おれの話は根掘り葉掘り聞かれて、終わったのは夕飯時だった。 お腹減った… 副隊長の提案で警備隊への紹介を兼ねて食堂で食事させてもらえる事になった。もちろんジェミルも一緒! すっぴんで行ったせいかどよめきが起こってモテモテになって落ち着かない。夜警があるからここではお酒が出ないのがせめてもの救いだ。これで酒があったら潰される!! ひっそりとジェミルがスカウトされてた。 なかなかの強さで平均顔で調査に向いているって。 …それならここの宿舎に一緒に住めるかも知れない。今は幼馴染とルームシェアしてるそうだ。 ジェミルを囮にした人か…。 そんな事を考えていたら隊員に声を掛けられた。 「なぁ、あんた恋人はいるのか?」 「え?…いえ、いませんけど。」 よっしゃあ!と、そこかしこから聞こえる。 本当にこの顔が人気なんだなー。 「お前ら、ミチルにちょっかい出すなら俺に断ってからにしろよ。」 「何でですか!?」 「気に入ったからに決まってるだろう!」 隊長横暴!職権濫用! そんな声が聞こえて来る。仲良いな。 「貴方のような美しい方は不埒者に狙われかねませんから、いつでも私を頼って下さって良いんですからね。」 副隊長がするりと隣に座り、手を握って言う。頼るのは私たちではなく私なの?警備隊副隊長だよね?こっそりお酒飲んでる? すっぴんどころかメイクしてたってこんなにモテた事ない。ちょっと行き過ぎだけど、受け入れられた感じがしてとても居心地が良い。 次は酒盛りをしようと誘われてジェミルと一緒に参加する約束をして宿舎を後にした。 家に着いて部屋の鍵を開けながらジェミルが言った。 「ミチル…幼馴染みのエルヴァンは、その…かなりモテるので…」 ん? …まさか、恋人? それだとおれ、じゃまだよね。 「違う!恋愛感情なんかない!!…ただ、エルがミチルを誘惑するんじゃないか、心配で…」 ガチャ 話をしながら扉を開けると部屋には灯りが点いていなかった。 「帰っていないようだ。入ってくれ。」 「おじゃまします。」 ジェミルの家は煉瓦造りの平屋の集合住宅で2DKだった。ジェミルの部屋はシンプルなベッドとチェストと豪華な3人掛けソファ。 ソファが豪華で浮いてる… 「すぐに水浴びする?」 「うん!使い方教えて。」 お風呂場と言うか水浴び場はポンプ式の井戸があるタイル張りの小部屋。井戸水なので冷たいから焼け石を用意して入る。 常に火が入っている共用のかまどがあるからそこで火をもらって来て、底に穴が開いた片手鍋みたいな道具に石を入れてかまどにかけて焼け石を作る。 石はずっと使っているから汚れもなく、水に直接入れられる。石のお皿が湯船に沈めてあるからそこに乗せるようにすれば木製の湯船も長持ちする。ヤケド注意! 湯船だぁ♡ おれはゆっくり風呂を堪能した。 「ジェミル、ありがとう!気持ち良かった〜!」 満面の笑みでお礼を言うと、ジェミルが真っ赤な顔で大きな声を出した。 「そっ!そんな格好で!!」 って、男同士なんだから腰タオル(しっかり目の手ぬぐいだけど)で良くない? 「あの…ジェミルってサキ、じゃないよね?」 「違うけど!でもサキじゃなくたって好きになれば恋人にもなるし、肌を重ねることもあるし!だからミチルは肌晒しちゃ駄目!」 おれが恋愛対象で性欲の対象、って事? あぁ、全員男なんだから全員が対象か。え?面倒くさくない??? ジェミルは優しいし強いし真面目っぽいし超美形だし、ぶっちゃけ男でもアリだけど… でも視姦されるのは恥ずかしい… なんかジェミルの口調が変わってるし… 「ごめん、でもおれ、着替えが無くて…」 上半身を両手で抱きしめるようにして隠し、不可抗力を訴えると、前ボタンのシャツを貸してくれた。彼シャツ状態… 下着は明日、買いに行きます。 おれの方が背が低いのでソファに寝るって言ったのにベッドを使ってくれと言われ、押し切られた。 そして夜中…誰かがおれの身体を弄っている…。って、ジェミル?まさか!? 「誰よアンタ!!」 「そっちこそ誰!?」 「エル!」 …なるほど、幼馴染のエルヴァンて人か。 あれ?恋人じゃないって言ってたのに夜這い…? 灯りを点けてみると、この国の人たちの顔だけど少し華奢な感じで女性っぽい。顔の紋様は描いてない。夜だからかな? 「っ!! どこでこんな美人見つけて来たのよ!?」 「…エルが俺を囮にして逃げた後、助けてもらったんだ。」 ジェミルの怒気を孕んだ低い声が怖い。 「ご…ごめんなさい…あの時は怖くて…」 「怖いと自ら進んで色仕掛けするのか?俺を売るのか?」 「商品を守るためじゃない!」 「…ミチルは恩人だ。野盗を殴り倒して何とか逃げて、動けなくなったところを介抱してもらったんだ。それで行く宛がないと言うからうちに泊めたのに、お前は…」 助けてもらったのはおれの方だよ? 「ミチルに手を出したら許さないからな。」 「えー?こんなにやる気満々な子、何でダメなのぉ?」 「惚れたからだ。」 「うそぉっ!?ノーパンでベッドに待機するような子が好みだったの!?」 「「違う!!」」 そこは不可抗力です! じゃあ顔?身体?とかぶつぶつ言い出してるけど、おいといて。ジェミルの…さっきの…告白?おれに??? いや、そんなはずないか。 きっと男気(または優しさ)に惚れたとかだな。 男気を披露した記憶は全くないけど。 「まぁ確かにこんな美人お目にかかった事ないし、ジェンが好きになるのも仕方ないわね。」 エルヴァンはため息混じりにそう言って、しぶしぶ部屋を出て行った。 「何もされてないか?」 軽く触られただけだから大丈夫。 ちょっとパンツの確認されたのが恥ずかしいけど腰だからね。前じゃないからね!! 「ねぇ、エルヴァンはサキなの?」 苦虫をかみつぶしたような顔で頷くジェミル。 ちょっと女性っぽかったな。でも恋愛感情が無いのにベッドに入ってくるとか…あり得るのかな? エルヴァンはジェミルが好きなのかも…? 「サキって事は…その…こどもが産める、の?」 「そうだ。」 「エルヴァンは…ジェミルの子供が欲しいのかな?」 「あいつはただ手頃な快楽を求めているだけだ。」 きっぱりと言うジェミルにしつこく聞く事は出来なかった。 「じゃぁ、あの…おやすみ。」 「ん、おやすみ。」 ちゅっ、…って!何したーーー!! でこちゅーとかあり得ない! っておたおたしてたらジェミルが悲しそうな声になった。 「すまない。おれなんかにキスされたらいやだよな。」 「いいいイヤな訳じゃなくて!おれにこんな事する人いなかったからとんでもなく照れるって言うか恥ずかしくて知恵熱出そうって言うか!!」 いや、もう本当に頭から湯気が出そう、顔から火が出そう。 「…イヤじゃなかったか?」 「あぅぅ…恥ずかしいけど…嬉しい…デス。」 好意を向けられるのって嬉しいじゃん! しかも超絶美形だよ? でもでも本当に色々あり過ぎて精神的に限界で… おれはそのまま寝落ちした。

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