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5 〜ハー〜

「おはようミチル、朝食を食べないか?」 しまった!寝坊した!? えーっと… ここどこだっけ? 「ミチル?」 「あっ!…おはよう、ジェミル。ちょっと寝ぼけてた。」 そうだ、異世界に来たんだった。 朝から豪華なイケメンがおれに優しい… ふわりと笑って少しだけ目尻を赤くするとか、破壊力が凄まじいです。堕ちます。 更にまたしてもおはようと言いながらでこちゅーしようとするから慌てて拒否してほっぺにしてもらった。じゅうぶん恥ずかしいけど、でこちゅーよりはマシだから!!(おれ的に) 「手伝わなくてごめんね。」 「いや、食事は屋台で買って来るだけだから。」 そう言う文化らしい。 ここの台所もミニキッチンレベルだったなぁ。 スープとご飯と野菜炒めっぽいのと唐揚げ。 ご飯だ〜!! 味付けもエスニック風で美味しい。 食後にミルクティーまで! 「ご馳走さま!美味しかった〜♡」 「お口に合って良かった。」 「…ねぇ、あたしの分は?」 「お前の分なんかあるか!」 忘れてたけどエルヴァンさんも居たんだった。そしてジェミルの機嫌が急降下… 「反省してるから!ごめんなさい!!だから許して?」 「ふざけるな!」 命の危険に晒されたんだもんなぁ。 ちょっとやそっとじゃ許せないよね。 「じゃ、じゃぁ、その美人の着替え買って来るから!ね、必要でしょ?」 それは確かにそうだ。 ノーパンで出歩くのも嫌だし、お言葉に甘えても良いんじゃないかなぁ? 「お前なんかに任せるなんて…」 「ね、おれ1人で待ってるの寂しいからエルヴァンにお願いしたいんだけど…」 って言ってみたら、ジェミルが蕩けた。 「もうやってらんない!必要なのは何!?下着と?」 「あの…おれ着がえ何一つ持ってないし、お金もないから…」 「まずは1揃いだけ頼む。そうしたら直接店に行って選ぶから。」 「はぁ…、分かったわ。ついでに朝食も食べて来るからそれなりの時間を見てちょうだいね。」 もちろんとっとと行って来いなんて酷い事は言いません。 大人しく待ってま〜す! それにしてもノーパンて落ち着かない…って事はなくて、すーすーして開放感!一人暮らしになってから家では裸族です!この町は暑いから快適〜♪ とは言え、な〜んか視線が気になるよなぁ。 「気になるよね?」 「いっ!いや、そんな…その…」 恥ずかし気もなく裸族になれるのは人目が無いからで、人目がある事を思い出したら落ち着かなくなった。 そうだ!テーブルなら気にならなくなるよね!! と、ダイニングセットに座ってみた。 直視しなくなるし、きっと気にならなくなる、はず!! 「あのさ、おれにもできる仕事って何があると思う?」 「…客商売なら何でも大成功するだろうな。けど、ミチルは何がしたい?嫌なことをしても長続きしないだろ?」 「う〜ん…したい事かぁ。」 これと言ってやりたい事がなかったから公務員になれたらな、ってしか考えた事ないなー。安定してるし、おれのスキル「空気になる」が役立ちそうな気がしたから。でもここだとこの顔、目立ってしかたないんだよね。 「そう言えばジェミルの仕事って?商品の買付けとか言ってたよね?」 「あぁ。エルが買付けて販売するんだが、荷運びやら護衛やらを引き受けている。正式な護衛を雇うと高いからな。」 だからジェミルの腕でも大丈夫そうなルートでしか買い付けに行かないんだけど、今回はたまたま野盗と遭遇してしまったんだって。無事で良かった! 「どんな仕事があるのか分からないから、服を買って来てもらったら町を歩いてみて良い?」 「もちろん!!着がえの服も一緒に行って選ぼう。」 なんかデートみたい…ジェミルのテンションがMAXだ。 そこへエルヴァンが帰って来た。 「ただいまー!はい、これ下着とシャツとパカマーと履物ね。」 と、出したのは明らかに複数セット。1式で頼んだはずなのに…お金は? 「これはねぇ、すべての人が魅了されるような美人に着せるって言ったら、そんなヤツがいるハズないって言うのよ。だから堅物のベルケルが見惚れたら全部タダにしてもらう、って言う賭けをしたの!」 「それ、見惚れなかったら支払いはどうするの?」 「絶対見惚れるから大丈夫!!」 「それは間違いないが…」 ジェミルまで肯定してる。 めっちゃ心配なんだけど!!…でもここの価値観はおれよりこの2人の方が分かってるんだし…? 「自信ないけど…」 「はぁっ!?何言ってんの?その顔で自信ないですってぇ!?」 うわーん!怒られた!! 「だっておれ、似顔絵簡単過ぎとか配置はバランス良いよね、とか言われてたんだよ!化粧しなきゃ褒められた事なんて1度もないんだから!!」 言ってて悲しくなるだろ! 「意味分かんないんだけど…それ、悪口なの?」 えーっと、おれは傷付いたけど悪口…ではないかな? もう、うるさい!ともかく美形とはほど遠い顔だったんだよ! 「じゃぁどんなのがアンタんとこの美形なの?」 「この国の人達、美形しかいない…」 「「え゛?」」 「だから、ここへ来て会った人全員がおれの感覚では美形なの!」 「ジェミルも?」 「ジェミルが1番かな。」 「「…………………。」」 同じく無言でもエルヴァンは青ざめて呆気にとられてて、ジェミルは喜びに言葉を失っている。 「わ…わたしの美しさが分からないってこと?」 「いや、だから全員美形で…」 「個性的でしょ!?私、たれ目がセクシーだってモテモテなんだから!!」 言われてみればたれ目気味だ。 アイラインで強調すればもっとセクシーになりそう。 「ごめん、おれここの人達の顔、まだ見慣れてなくて…華奢だなぁ、って思うけど顔立ちの善し悪しは分からないんだ…」 あぁ、ごめん。落ち込ませちゃった。 「ねぇ、この国の化粧って頬の模様だけなの?アイラインとか口紅とかは使わないの?」 「アイライン?口紅?」 これはやってみせた方が分かりやすいかな。 口紅は…聞いてみよう。 「ちょっと待ってて。」 ジェミルの部屋のバッグからメイクセットを持って来て、エルヴァンにたれ目を強調するアイラインを引く。 もともと美形だからこれだけで良いか。 「口紅はどうする?唇に色を付けるんだけど…」 パレットを見せると目を輝かせた。 比較的新しいけど、使ってはいる。 そうだ、使ってない色を綿棒で塗れば汚いって言われないかな? 「この色、まだ使ってないから試してみる?」 質問にただ頷く事で答えるエルヴァン。小さな女の子が初めて化粧してもらうみたい。 途中で足りなくならないように綿棒に満遍なくカラーをつけて形の良い唇に塗って行く。ついでにグロスも塗ってみた。 「ほら、こんな感じ。」 鏡を見せると、自分の顔に見惚れてため息をつく。 ジェミルも言葉を失っている。 「ね、どう?」 「…こんなにきれいになったエルは初めて見ました。」 「本当に…。なんで?何でこんなにきれいなの?」 うーん… 喜んでもらえて良かった…? ワンポイントメイクどころじゃないシンプルさだけど、ナチュラルメイクがないからスッピン美人風になったんだね。 「こう言う化粧品開発して売ったら儲かりそうだね。」 何の気無しに言った言葉がエルヴァンの商魂に火をつけた。 鼻息荒く化粧品についての質問をし続けて服屋へ行くのは昼食後になってしまった。

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