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12 〜 シップソーン 〜
「あっ!マサキ!?お前、真咲か!?」
「…え?あっ!満!!」
「「久しぶり〜〜〜〜〜〜〜〜!!」いたたっ!」
おれたちはがしっと抱き合った。
こいつ、変わってない!
ぽっちゃりで色白でぱっちり目であだ名は男なのに「ぽぽちゃん」で。
真咲の引っ越しで中学から離れちゃったけど、それまでは親友だったんだよなー。
「あはははは!この感触、全然変わらないな、お前。」
「やっ!やめてよ、こっちに来てからなんだか…んん…変な感じがして困ってるんだから!」
小学校時代のようにおっぱいを揉んだら嫌がられた。
「そう言えばお前、どうやってここに?」
「満こそ。」
呆気にとられる周りを他所におれたちはそれぞれの経緯を話し合った。
真咲の怪我の治療をして、場所を変えて、お茶飲みながらね。
「ぼくは3ヶ月くらい前に塾の帰りに風に飛ばされた成績表を追いかけてて、急な階段から転げ落ちて、気か付いたらここの近くの泉の側に倒れてたんだ。それをレンキさんが助けてくれて…」
「へー。おれは渋谷のトイレを出たら土砂降りのこっちの世界で、このジェミルを拾ったような拾われたような???まだこっちへ来て5日しか経ってない。」
「ジェミルさん…レンキさんとそっくりだけど、双子?」
真咲の言葉に2人がイヤそうな顔をする。
あれ?
「真咲、こっちの人達何人ぐらい会った?」
「え?…レンキさんがここら辺は治安が悪いから外には出るなって言うから他の人には会ってないよ。」
「じゃぁこの世界に男しか居ない事とか、みんな同じような顔してるとか、多分俺達が超絶美形扱いされる事とか、知らないの?」
「いくらなんでも、そんなの信じられないよ。」
「…お前が信じようと信じまいと、ここは異世界なんだよ。」
「なんで言い切れるの?」
「この世界に来てから女の人見てないから。」
「治安が悪いから家から出て来ないだけかもよ?」
「けどおれが美しいって拝まれるんだぞ?」
「アジアンビューティーがもて囃される国もあるでしょ?」
「けど同じような顔ばっかりだし、日本語が通じるし、男が子供を産むんだぞ?」
「見たの?」
「え?」
「産む所を見たの?騙されてるんじゃないの?」
「それは…見た事…ないけど…」
こいつ、ぽっちゃり癒し系の見た目の割に理屈っぽくていっつも言い負かされるんだよな。ポンポン否定されて自信が無くなって来た。けど、日本じゃないだろうが!!
「ちょっと良いか?」
イザーニさんが女とは、異世界とはなんだ?って質問するからおれたちがいた世界では女の人、つまり生まれつきのサキが子供を産んで、男がサキになる事は無いと説明すると頭を抱えた。
「でも『治安が悪い』は嘘よ?」
「そうなんですか?」
「アナタが他の男を選んで出て行くのが怖かったんじゃないかしら。」
エルヴァンの言葉に皆の注目がレンキさんに集まる。
「俺は…俺……生まれて初めてだったんだ。こんな俺をかっこいいって…うっとり見つめるヤツなんて…しかもこんな美人が…」
いつかはバレるだろうと思いながら、閉じ込めずにはいられなかった、って告白した。
「えーっと…、でもぼく、レンキさんとの静かな生活、好きですよ。町も見てみたいけど行くならレンキさんと一緒が良いし、お仕事手伝いたいな、って…」
「染め物は手が染まっちまう。お前の指がこんな色になるなんてイヤだ。」
「そうかな?…レンキさんの手は職人さんの手だから男らしいかっこいい手なのに。」
素材の準備とか乾かした生地を取り込んで畳むとか掃除とかやらせてもらえば良いじゃん!
「おいっ!いちゃこらは後にしろ!で?協力すんのかしないのか返事は!?」
「マサキの友達なら協力しない訳にはいかないな。なんでも言ってくれ。」
何故イザーニさんが切れ気味なのか???
レンキさんは染物屋さんだけど絵の具も作っているそうで、まずはアイライナーについて相談した。
「油を燃やして煤を採るのか。考えた事もなかったが確かに砕く必要もなくて使いやすいかも知れないな。」
テレビで見た煤の取り方を説明して、後はイザーニさんの心当たりの素材と混ぜて使い勝手を検証する事になった。ここからはしばらくお任せだ。
カドリさんが気を利かせて迎えの馬車を手配してくれていたので、おれたちはそれに乗って家に帰った。
また酔った…
化粧品は研究待ちだから当面の仕事を見つけないとなー。さて、どうしよう?
「当面の仕事、どうしよう?ジェミルとエルヴァンは?」
「私はこの前死守した商品を売って、また仕入れに行くわ。よろしくね、ジェミル。」
「断る。」
「なんでよ!?」
「俺ではあの街道の野盗に敵わなかったからだ。ちゃんとした護衛を雇え。」
「頑張れば何とかなるでしょ?」
「なるか!」
エルヴァン…根性論だけではどうにもならない事があると思うんだ。
じゃあ、ジェミルはどうするのかと聞いたら警備隊に入って鍛えてもらうつもりだと言った。そうか。じゃあおれはどうしようかなぁ?
「その顔ならいくらでも客商売できるでしょう?」
「なんかやたらとモテるのって面倒くさいんだよ。慣れてないしさ。」
「うわっ!腹立つわね〜〜!」
「いや、エルヴァン充分モテるだろ?」
「面倒くさい程じゃないわよ。」
でも今日だけでビルジさんとイザーニさんに興味持たれてたよね?
「そうだけど、なかなか最高の人には巡り会えなくて…高位の貴族か大金持ちで、優しくてエッチが上手で体の相性も良くて個性溢れる人ってなかなか会う機会がないのよね〜。」
ずいぶん理想が高いと言うかなんと言うか…
あれ?
高位の貴族って王都とかもっと都会にいるんじゃないの?
「王都は出入りの監視が厳しくて…、入るにはかなりお金がかかるのよ!!」
食料も衣料品も生活道具も王都の外で取引して品物だけを持ち込むそうだ。なんか閉鎖的…
「噂ではお妃様を溺愛するあまり王は全ての男が間男に見えて厳しく取り締まってるんだって〜…。」
「なんで怖い話みたいな言い方するんだよ!?」
「…怖いのか?」
「怖くはない!
…けど怖い話キライなんだよ…」
「怖い話って言えば…「ぎゃーーー!!聞きたくない!聞かせるな!!」
エルヴァンの言葉を遮って耳を塞いでうずくまると、ジェミルがエルヴァンを追っ払ってくれた。
「もう大丈夫だ。」
「ありがとう!!も、おれ怖い話って本当に苦手でぇぇ…」
「怖がらなくて良い。」
そう言ってジェミルはおれをお姫様抱っこしてそのままソファに腰掛けた。
「ジェミル?」
「こうした方が安心できると思ったんだが…」
「あ…本当だ。」
この国は気温が高いから引っ付いてると暑いけど、それでも人肌って落ち着く。爽やかなハーブの香りと汗の匂い、スパイシーな香り…。尻に当たる熱くて固い…え?
おそるおそる見上げるとそっぽ向いて頬を染める美形。
抱っこしてよしよししてイケメンな行動したのに勃っちゃってスルーして下さい、って言いたい訳ですね。やだ可愛い過ぎ!でも受け入れる覚悟も無いのに煽ったらダメだよねー。どうしたら良いんだろう?
…身動きが取れない。
………………。
………………。
………………。
「あのさ、夕飯、食べに行かない?」
「そうだな。夕飯に行こう。」
少し間をあけて返って来た返事は棒読みだったけど、ちゃんと食べに行きました。
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