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30 〜サームシップ〜
とりあえず両想い(仮)になったので一緒にお風呂に入った。お湯は抜いてなかったから減った分の水を足して焼け石で温める。時間短縮!
シーツもついでに洗った。
「じゃぁ、ジェミルまたね。」
「あぁ、また明日。」
あ、つい流れで致したけど、野盗捕縛の件の報告、急がなくて良かったのかな?傭兵の方でやるから良いのかな?
…ちょっと申し訳ない。
「ミ〜チ〜ル〜!!何でジェミルには入れて私には入れてくれないのよ!?」
「何で知ってるの!?」
「丸聞こえよ!!」
ぎゃー!筒抜けだった!!
「この部屋、周り中に筒抜けなの?」
「家族用だから私の部屋にだけよ。他の人の家には聞こえないわ。」
あー、良かった。
いや、良くない???
「何でジェミルなの?サキの私の方が良いでしょう?」
「だって子種とか言われたらビビるじゃん。まだ子供持つ覚悟なんてないよ。」
「私が育てるから心配しないで!」
「いや、でもね…?」
その後もしばらく文句言われたけど、おれはビビリなんです!
悪いけど化粧してあげない、と脅してこの話は終了。忘れてたから夕飯食べに一緒に行きます。ハリムの店で良い?
もぞもぞもぞもぞ…
「どうかした?」
「馬に乗ったらお尻擦りむいちゃって痛い…」
傷薬でだいぶマシだけど、圧迫するとやっぱり痛い。カウンターで立ったまま食べようかな?
「今日は美人2人か?最高だな!!」
「あ、メイベ。…もしかして毎日来てる?」
ギクッとして目を泳がせる…別に悪い事じゃないのに。
「今日は座らないのか?」
「あー…ちょっとね。そう言えばアチェクの実、知ってる?」
「そりゃ知ってはいるが、食いもんじゃねぇぞ?」
「まぁ、そうなんだけど…どうにかして少しくらい口に入っても大丈夫にできないかな、って。」
「よりにもよって…待てよ?確か北の貧しい地方でどうにかして食ってるって聞いたような…?」
「それホント!?」
「あ、あぁ…いや、噂だ。保証はできないし、北の地方の民はごく少数で、話を聞こうにもアテがない。」
それでも光明だよ!
今夜も楽しく食事してちょっとお酌して帰った。
そして翌日、商人ギルドに朗報が届いた。
「ミチル、野盗捕縛に尽力してくれたそうだな?」
「時間稼ぎをしただけです。」
「お陰で1人捕縛できたが、入りたての下っ端で…」
傭兵団リーダーのセルハンが例の野盗の話を聞かせてくれた。
家が貧しくて食い詰めて野盗に入れてもらったけど手柄がないと扱いが悪い。護衛付きの商人を襲うのは1人では無理だから人攫いをしようとしていた…、
と拷問すると脅しただけでペラペラ喋ったらしい。まぁ、罪が軽いうちに償って真っ当な職に就いた方が良いよね。
「それで、北の方で土砂崩れがあって、元々貧しいのに獲物も山の恵みも得られなくなって食い詰めた人間が流れて来て、まとめて野盗の一部になってるらしい。」
…北の方?
「あの!その人に聞きたい事があるんですが、ダメですか?」
「内容による。」
「アチェクの実を食べる地方があるらしいんですが、食べ方を知りたくて…。」
「あんな物が食べたいのか!?食べ物の好みも個性的なのか…?」
「食べたい訳ではありませんが、利用方法を模索してまして。」
会わせる事は出来ないから聞いてくれる事になった。情報が手に入ればOKです!
「ねぇ、アチェクの実をどうするの〜?」
「えーっと…まだ内緒です。」
「ミチル、お尻はどうしたの?」
「…初めて馬に乗ったらこうなった〜…。」
今日も洗われたから傷を見られています。もう痛くはないけどね。
「痕になったらどうするの!?」
「いや、見えない所だから別に…」
「穴が空くほど見てあげる!」
「尻の穴は1つでいいんだー!!」
そんなアホなやり取りをしていたらエジェさんが質問して来た。
「さっきの話、本当なの?」
「え?」
「野盗捕縛に尽力って…」
「あー、まぁ一応?」
「危険な事はやめなさい!」
と、言われても真咲を守りたかったし。でも真咲の存在は秘密だから…
「わざとじゃないですよ?忘れ物取りに行ったら鉢合わせしちゃっただけで…警備隊見習いの人が一緒だったから助けを呼びに行ってもらったんです。」
「警備隊員が時間稼げば良いでしょう!?」
「おれ、1人で馬乗れないから…」
なんだか感極まった感じで抱きしめられた。
「弟が…行方不明で…生きているのかすら分からなくて…辛いのよ。」
そんな過去が!?
弟さんを思い出して動揺するエジェさんを抱きしめた。
「は…ん…」
ん?
「ミチルちゃん…そこはダメよ〜。」
「そこ…、背の花。」
「わぁっ!ごめんなさい!!」
うっかり痴漢しちゃったよ。いや、ラッキースケベかな?
「と…とにかく、自分を大事にしなさい!」
「はい!」
それから文字の練習をしながら夕食会を待っていたらセルハン様がやって来た。
「ミチル、アチェクの話はお前に直接なら喋ると言っている。拷問しても良いんだが…。」
「拷問なんて止めて下さい!」
「そう言うだろうと思ったから、呼びに来たんだ。」
おれの方は急がなくても良いんだけど、野盗の処遇決定を先延ばしにするのもアレなので、と許可をもらって夕食会を休んで傭兵ギルドに行った。
裁判とかないのかな?
牢屋だ。
鉄格子がはまった窓付きの頑丈な扉。石を積んだだけの部屋。…ただ、暑い国なので気温的には快適そうだ。
「おい!連れて来たぞ。」
「…その美人だけ入れ。」
「そんな危険な事が出来るか!」
「こんな手枷を嵌められて何ができるって言うんだよ。便所だってままならないってのに。」
「…漏らしちゃったの?」
「漏らしてねぇ!」
良かった!大人として情けないもんね。
たぶん大丈夫だと思うからセルハン様に頷いて中に入れてもらった。
根拠はない!!
「えーっと…。」
「俺に聞きたい事があるんだろう?尻は大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。あの時はアチェク食べさせてごめんね?」
「まったくだ。あんな酷い事されるような事してないつもりだったからな。」
「でも野盗だよね?」
「…そうだな。けどまだ何も盗んでないし、ほどほどのやつを娼館に紹介しただけだからな。」
「その人は娼館で働きたいって言ったの?」
「…いや、どうだったかな。ただ働き口を探している、何でもします、って言っただけだな。」
思わずジト目になる。
でもその人が娼館に入ったからって身体を売ってるとは限らないし、苦しんでいるとも限らない。だから罪悪感が薄いんだろう。
「おれ、アチェクを食べる地方があるって聞いたんだけど、知ってる?」
「まぁな。」
「知ってるの!?」
「あんなものでも食わなきゃ飢えて死ぬ。子供は弱いから天候が悪くなればさっさと売るが、大人、特に年寄りは買い手も付かないし働き口もない。」
「その上、土砂崩れ…?」
「ああ。」
「でも!!野盗はダメだよ!」
「そうは言ってもどうにもならん。年寄りは物乞いだ。」
仕方がない事だけど…
日本にだってホームレスはいたけど…!
「ねぇ、アチェクは沢山あるの?」
「嫌がらせのようにあったぞ。」
「それを使って商売、する気ない?」
「…食えるようにしたところで美味くもないし、腹持ちも良くないぞ。あと口の中が真っ赤になる。」
ブルーハワイ的な。
いや、それはむしろwelcome!
「実はアチェクで作りたい物があるんだけど、口に入っても大丈夫にしないとならないんだ。教えてくれたら村人全員…は無理かも知れないけど、15〜20人分くらいの仕事ができると思うんだ。どう?」
「本当か!?…それが本当なら…全員野盗なんかすぐに辞めるぞ!」
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