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31 〜サームシップエッ〜
野盗はディレクと名乗った。
セルハン様にお願いして手枷を外してもらったけど手が痺れちゃってたから、食事を食べさせてあげた。串焼き1本とご飯とスープだけの質素な食事だけど、ディレクは美味い、って涙を滲ませてた。
セルハン様と一緒にギルドへ戻ると、宴もたけなわだった。
犯罪者の食事なんてあんな物だろうけど、あれで涙を流すほど食い詰めていた事を考えてしまって、このままこの仕事を続ける事はできないと思った。
「セルハン様、カドリ様、後でお話を聞いてもらえますか?」
「ここではダメなのか?」
「おれは構いませんが…野盗の中にディレクの集落の人達が大勢いるようなのですが、その人達をまとめて雇用したいのです。仕事の内容と…その…資金についてはカドリ様に相談したいと思っています。」
酔っぱらっていると思っていた人達まで顔つきが変わり、静かになった。
そこでディレクに聞いた困窮する集落の話をした。
「うちは傭兵団だから本来は野盗を潰したら警備隊に引き渡して終わるんだが、今回はアジトを探すためにあいつを預かっていたんだ。罪の重い者は強制労働、軽い者は罰金または懲役、もしくは労働だ。道を作ったり補修したり井戸を掘ったりが多い。その場合、年寄りは使い辛くて持て余していた所だ。ミチルの言う仕事年寄りでもできるのか?」
「できます!」
「ならば監視付きで作業させる事は可能だろう。こんな田舎町じゃ、そうそう厳しく管理されないからな。」
「じゃぁ、その集落の人達は優先的にこちらへ回してもらえますか?」
「そのように手配しよう。」
「それで、私への話とは?」
「ここを辞めたいんです。」
「「「「「えーーーーーーーーーー!?」」」」」
宝石研磨職人に弟子入りしたい夢と、ディレク達の仕事が軌道に乗るまで一緒に頑張りたい事を話したらヒューリャに止められた。
「ミチル、まだ文字書けないじゃない!その顔で職人になるのも神への冒涜だよ!!書類読めなくて騙されたらどうするの!?採算取れなかったら!?」
途中に変な意見が混じってるけど、言いたい事は分かる。
「経営や文字の読み書きについては私が責任を持ちます。ただ、資金がどれくらい必要なのかが雇用人数に寄っても変わりますからまだ何とも言えません。」
それはそうだろう。
おれだって本当はまずカドリさんに相談してからのつもりだったんだけど、ごちそうを見るだけでも辛くなっちゃって…
「資金については後回しにして、とにかくここを辞めさせて下さい。」
アイラインだけでも商品化すれば資金集めの役に立つと思うんだよね。
カドリさんは独占したいって言ってたけど、作り方は秘密にしてここのメンバーだけで扱うならアリだと思う。そこも話し合いです。
とは言え、野盗を取り押さえない事には始まらないのでしばらく保留になりました。
もう1つカドリさんに相談したかったんだ。
「カドリ様、商品についても少し相談したいんですが。」
「では今夜、我が家へお出でいただけますか?それとも馬車で送る時にご一緒するだけで足りますか?」
「馬車で足ります。回り道させてすみません、ありがとうございます。」
今日の集まりはただの定例会だったので、あまり遅くならずに終わった。馬車の中でカドリさんに仮のアイラインが出来ている事と、野党を捕まえるのに囮に化粧したら良いんじゃないか、と言う提案。
新商品はしばらく門外不出にしたいと言ってたけど、話をした感じだとディレクの仲間は人を言いくるめて売る方向で手柄を立てようとするみたいだから傭兵に化粧をしたら囮になると思うんだよね。
カドリさんはしばらく考えてから許可をくれた。
「ありがとうございます!」
「止めたらミチルが囮を買って出そうですからな。」
「…分かります?」
「それはもう見え見えです。でも元からの野盗の方に捕まったら危険ですから、絶対だめですよ。」
「はい!お休みなさい。」
良い子の返事をして警備隊宿舎で降りた。
「ミチル!この時間だと夕飯もう食べた?」
「食べて来た。」
「じゃあ送って行こうか?」
「俺が行く。」
エニスが送ると言ってくれてたらジェミルが行くと言う。まだ見回り休み?
「お前は怪我が治るまでおとなしくしてろって。」
「いやだ。」
怪我と言ってもそれほどじゃないみたいだから、じっとしていられないのかな?
「お前はミチルにいいとこ見せられたんだから譲れ。」
「あんなの!!全然ダメだ!」
「けど………」
「なっ!?」
『けど』の後に何を言ったか分からないけど、ジェミルが真っ赤になっている。何を言われたんだろう?
「エニス、3人で飲みに行く?タダになるの、2人までだけど。」
「何それ?いいよ、自分の分くらい出すよ!」
と、言う事で3人でハリムの店に行った。行き過ぎかな?
「取り敢えずかんぱーい!」
「ミチルにかんぱーい!」
「……」
「ジェミル、なんか…ごめんね。」
「あっ!…いや、いい言葉が思いつかなかっただけだ。すまん。」
良かった。
それにしてもエニスは話し上手。ジェミルも対抗心が薄れて来たようで寛いでいる。
「…で、ミチル。初めてはどうだった?」
ぎくっ!
そっ、その初めてと言うのは、やっぱり夜の事…でしょうか?
狼狽えて挙動不審になっていると、ジェミルが言った。
「言う必要はない。」
「えー?だって初めてだと、痛いだろ?」
「そんな事は無い。」
「いや、ジェミルじゃなくてミチルに聞いてんだけど?」
「おっ、おれ!?」
「そうだよ。初めてだったんでしょ?馬に乗るの。」
やられた!
めっちゃニヤニヤしてる〜〜〜〜!!
「お、お尻がすりむけた…。」
「だよねー。乗り方ちゃんと教えなきゃダメだろ?ジェミル。」
「す…、すまなかった。」
「いや、別に、仕方ないって!」
‥‥‥で。
なぜ家に送って貰ったら尻を出さにゃならんのか。
「だってジェミルは入隊早々手柄立ててミチルとヤる事やって馬で2人乗りして!羨ましすぎ!!」
「それ同列なの!?」
「心配してるんだよ?」
「嘘だ。」
「お尻見たい!触りたい!」
「本音出た!!」
「エニス、警備隊員がそんなのでいいのか!?」
「友達としてお願いしてるの!ミチルがどうしても嫌なら諦めるけど別に良いかと思ってくれるならお願いしたいじゃないか!」
「断ってるだろう!」
「じゃぁせめて傷の具合見せて?」
何がせめてなのか謎です。
「もう!尻ならこの前見たでしょ!?」
「見せたのか!?」
「見てないよ。」
あれ?
「見たのは背中と前だけでお尻は見てない。」
「あぁ、仰向けで咥えられたんだった。‥‥‥って!!もう、良いから帰って!」
「はぁ‥‥‥わかった、諦めるよ。またね、お休み。」
ちゅっておでこにキスされてオタオタしてたらジェミルがキレた。
「エニス先輩、帰りましょう。」
背景にズモモモッて描き文字背負ってエニスの襟首掴んで引っ張って行った。
「あっ!おやすみ、ジェミル!」
「あぁ、お休み、ミチル。」
どす黒いオーラを纏って良い笑顔で返事をするとか、ジェミル器用だな。
独り占めできないって言ってたけどやっぱり嫉妬はするのか。‥‥‥当たり前だろうし、嬉しい。
おれ、性格悪い‥‥‥。
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