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第13話「誓いの火」 【完】

打っては返す黒い波が、空に手を伸ばしている。 沖の海は、機銃を撃ち鳴らすが如く波のうめきが轟き止まない。 ポケットに御守り袋が入っていた。 見覚えない袋で中身がコリコリする。不思議に思い取り出すと、莓の飴と、写真が一枚入っている。 幼い頃、一緒に撮った写真だった。 「幸せに」…… 裏にそう添えてあった。 あの夜。こっそりポケットの中に忍ばせた御守りは、意地の悪いあいつの目印なのだろう。 帰る場所 お前は今、どこにいる。 空か、海か 日本万歳! こんな国、壊れちまえ! 壊れるまで弾いてやる。 波の中に跪く。 お前と同じ海の中 指が波を叩く。 冷たい波の鍵盤を 聞こえるか、俺のピアノが…… どこにいても、お前に届ける。 この旋律を 波に指を飲まれても、波を叩き弾き続ける。 空を映した黒い波を叩き続ける。 海は、空の色で 空は波を(わら)って、水平線の彼方に光を乗せた。 夜が明ける…… 蒼い波の狭間に一羽の鳥が飛んだ。 旭日が燃えている。 ―完―

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