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第45話
「それで切ったの?手首…」
「そ、切ったっていうか刺したって言うよな」
身振りで教えながらヨシはいう。
「こわ…」
それを見て息を呑む…
「おー、今思うとよくあんなことしたなーって思うぜ、覚えてねーくらい何回も刺したからなー、たぶん精神にきてたんだろーな」
「…痛いのに何回もよく刺せたな…」
「うーん、むしろ痛くなくなったら死ぬって思って恐かったんだろ、だから死なないために何回も刺したんだよ、バカだよな刺す時は死のうとしたくせに、実際やったらやっぱり死ぬのが恐いんだから、情けねーガギだったんだよ…」
「でも、それってフツーだよ。死ぬのは大人だって恐いんだもん、こどもだったらなおさらじゃん」
いつものにこにこ笑顔をみせていうルード。
そのルードをしばしみつめ…
「…変わってねーな、お前は」
ヨシも笑顔で答える。
「なんで?俺は変わったよ、背も高くなったし…」
少し不納得ぎみに言い返す。
「ははっ、まぁ2年前はピアスなんかしてなかったし、俺の胸にスッポリおさまるサイズだったからなー、マジ信じらんねーや」
そう苦笑いする。
「…んだよ、訳わかんねーぞヨシ」
首を傾げるルード。
「でも、中身は前のまんま、変わってねーよ、ふつーに俺が昔の話出来るのも、ルードだからだしな…やっぱお前のコト好きなんだな俺」
納得したように頷き微笑む。
「…ヨシだって全然変わってねーじゃん、そのナンパなトコ、ヨシらしいけどさ…」
ざばっと湯槽から上がりながら言うルード。
「あがるのか?早いなぁ…」
ヨシは一通り洗い終わってルードに代わって湯につかる。
「んー、俺、長湯しない方だからさ、なんか…風呂の湯気長く吸ってると苦しくなるんだ…」
胸のあたりを軽く叩きながら言うルード。
「えー?ふつーだろ?」
ヨシは首を傾げる。
「俺は苦しいの、早く新鮮な空気が吸いてーぞ!」
「ふーん、変な奴。俺なんかのんびりつかってる方だけどなー、のぼせやすいのか?」
もう一度聞くヨシ。
「たぶんそう、じゃ俺、外でるからな!」
ヒラっと手を振って脱衣所に出てしまう。
「ほーい、つーか、お前サウナとか絶対ムリそうだな」
つまらなそうに返事をして、言葉をかける。
「当然!ぜったい一生入らないからなー。ふー、涼しいー…ていうか、ちょい寒ッ…」
ぶるっと身震いするルード。
「冬はしっかり暖まらないと、カゼひくぜ?」
いつもの調子で戸の向こうにいるルードに優しく声かける。
「へーき、すぐ服着るからさ!」
笑っていうルード、簡単に身体を拭いて、服を着はじめる。
「……」
「……ヨシ?まさか寝たのか?」
なんだか急に静かになったヨシを気にしてルードが、浴室を覗いてみる。
「誰が寝るか、考え事してたんだよ」
「…ふーん、ヨシ酔ってるから溺れてないか心配しただろ、会話しろよ、ちゃんと…」
「んな狭い風呂で溺れるかよ、俺も出よ」
そう言葉を出して風呂からあがる。
「はい。バスタオル!」
置いてあったバスタオルを出てきたヨシに渡してあげるルード。
「お、サンキュー、マジ寒いな…」
脱衣所はかなり冷えるらしく…そう言葉にして身体を拭く。
「長風呂派なヨシの割りには早くあがったんだな、ヨシこそ風邪ひくなよ」
「…ルードがさっさとあがるからだろ、風邪ひいたらお前のせいな」
にっと軽く笑って言う。
「えー?ならもっと暖まれよ、俺のせいにされちゃたまんないって…」
「ははっ、冗談。んな事で風邪なんかひかねーよ」
そう笑って着終えたルードにいうヨシだが…
不意に、くしゅん。くしゅん。と体格に似合わない可愛いくしゃみをする。
「あー。言ってる傍からくしゃみして、ちゃんと髪拭かないからだぜ、ったくアキラもヨシも…」
やれやれという感じで前からヨシの髪も拭いてやるルード。
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