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歓喜

 体にまとわりつく気だるさに目を覚ました文梓は両脇にいる従者に驚き目を見開いた。 「!?」  体を起こして離れようとするも、双子の腕がそれぞれ文梓を抱きしめるように絡みつき、抜け出すことは早々に困難だと見て諦めた。それから昨日の、二人との行為を思い出し、深く溜め息を吐く。  終わってしまえば羞恥心とかそんなものなんてそのだ。ただ、嫌悪感があるだけ。  人間に触られた。穢れた。人間に触ってしまった。穢してしまった。  ボロボロと涙が零れはじめる。どうしようもなくて枕に顔をうずめて泣き声を殺した。 「泣かないで、文梓様」 「っ……泣いて、ないし」 「声が震えてる」  誉有が目を覚まし、柔らかい髪を節くれだった指が梳く。  いつもは無表情のくせに、志乃みたいな笑みを浮かべた誉有は赤く涙の滲んだ瞼に口付けを落とす。  可愛い可愛いと撫ぜてくる誉有に堅く強ばった表情筋が少しばかり柔らかくなった。 「ねぇ、文梓様は嫌だった? 俺と志乃とヤるのは」 「……嫌」 「それは人間が醜いから?」 「……そう」 「じゃあ、俺も志乃も、文梓様も、同じくらい醜いんだから、触っても触られてもこれ以上醜くも汚れることなんてないんだよ。だから泣かないでくださいな。俺は、泣かれたらどうしたらいいかわからない。志乃みたいにうまく慰められないし」  詰めていた息を軽く吐き出して、誉有の言い放ったことを理解しようと脳を働かせる。  人間は醜い。全てが醜い。だから自分も醜いのだ。誉有の言っていることを認めてしまえば、これまでの文梓の価値観が全てひっくり返ることになる。 「でも」 「どうしても無理だって言うなら、俺と志乃『だけ』許してください。文梓様に触れることを」 「え?」  寝転がったまま誉有と目を合わせる。淡い灰銀色の瞳は無機質で何を考えているのか悟らせない。 「文梓様がどれだけ自分を醜いと言っても、俺たちはまったく気にしないです」 「誉有……」 「文梓様が汚いと言うなら、汚いんだ。醜いんだ。けれどそれでも、俺たちは文梓様に触れたい。文梓様に触れられたい。文梓様になら、どれだけ汚されたっていい」  それは狂気にも近い。否、狂気そのものだと双子は理解していた。  主の声を聞けるだけで一喜し、姿を見れるだけで幸せを感じられる。これもまた、幼い頃からの刷り込みだろう。  生まれた時から文梓に仕えることが決まっていた双子の宿命。主が自身の命となり中心となり全てとなる。  そうして育てられてきた志乃と誉有の中心は、今までもこれからも文梓であった。 「わたくしが、そなたらに触れてもよろしいの?」 「もちろんですよ。志乃だって、喜んで頷きます」 「……そうかえ」  一つ頷き、困ったふうに苦笑した文梓は小さく安堵の息を漏らして誉有の頬に手を滑らせた。

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