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満員電車の悪夢⑤
Side 空(※回想終わりです)
「私が誰だか、キミは覚えていないだろう」
男は耳元で囁くように言った。
覚えてるとか覚えてないとか以前に顔見えないから確認できないし。
って思ったけど、今はこの人が誰かということより、とにかくこの痴漢行為をやめてほしかった。
「誰だかわからないけど、もうやめてください…っ」
僕は小声で訴えた。
「何回言わせる気だい?やめる訳がないと。ずっと待ち焦がれていたんだからね、キミと触れ合えるときを」
「勝手に触ってるだけじゃないですか」
触れ合った覚えなんてない。
「そうか、うん、キミの言う通りだ。じゃあ引き続き勝手に触れせてもらうよ。あ、別に大声を出してくれても構わないからね。できるならだけど」
大声なんて出せる訳ない。
男なのに痴漢に合いましたなんて。
この男は、僕が大声を出せないことをわかって、こう言っているんだと思った。
僕が何も言い返せないでいるのをいいことに、男が僕のシャツの中に手を入れて、素肌に触れてきた。
「ゃ、やめっ」
ひんやりとした手が素肌に触れ、ビクッとしてしまう。
「あぁ、絹のようだ。こんなに滑らかで気持ちのいい肌触りは初めてだよ」
男は感嘆したように言う。
脇腹から入り込んだ手のひらは、腹部を撫で回した。
「んっ、ふぁっ」
僕は小さな悲鳴を漏らしてしまう。
手は肋を一本ずつ数えるように、少しずつ上に上がっていく
胸の突起に指が触れる。
「やぁん」
「感じてるのかい?少し触れただけなのに、いやらしい身体をしているんだね、キミは。ふふ、私も嬉しいよ。あの日、シャツ越しに見たキミの乳首で何度も抜いたんだからね。まさか直に触れるときがくるなんて、夢のようだよ」
「ひっ…!」
そう言って、耳をぺろっと舐められた。
この男が何を言っているのかわからない。
わからないからこそ、僕の恐怖は増していく。
怖い。
助けて、ひよしさん。
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