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(日常小話)8月の夜の帰り道
Side ひよしさん
8月の満月が綺麗な夜。
空と一緒にコンビニにアイスを買いに行った。
俺は半袖シャツに半ズボンにサンダル、空は半袖パーカーに七部丈ズボンという共にラフな格好だ。
2人でアイスを食べながら並んで歩く帰り道。
「あ、猫さんだ」
空が指差して言った。
「お、ほんとだ」
指先の指す方を見ると、道の端の方で黒猫があぐらをかいていた。
「何かあげられるものあればよかったんだけどなぁ」
「アイスやれば?」
「食べる訳ないじゃん」
そう言って、俺を軽く睨んだ後、意気揚々と猫にゆっくり近付いていく空。
そういやこいつ猫好きだったな。
「ひよしさん、この子逃げないよ~!珍しいなぁ。野良猫だとすぐに逃げちゃうんだけど」
そう言って、空はその黒猫を撫でる。
「空の事、猫だと思ってんじゃね?」
「猫同士ってあんまり仲良くならないんだよ。だから、僕が仲間だとしたら尻尾立ててキーッて威嚇し始める筈…って違う!僕猫じゃない!」
空の天然なのかノリツッコミなのかわかんないやつが炸裂した。
それにビックリしたのか黒猫はビクッとして立ち上がるとどっかに行っちまった。
「あーっ!猫さん行っちゃった…。もう、ひよしさんが余計なこと言うから」
「空のノリツッコミにびっくりしたんだろ?つーかアイス溶けるぞ」
「あ、ほんとだ溶けてる!」
慌ててアイスを口に含む空。
なんかそういう仕草がいちいち可愛いんだよな、こいつ。ずーっと見てられるわ。
「それにしても黒猫なんて珍しいね」
「そうか?」
「うん、この辺ではあんまり見かけないよ」
俺と空はまた並んで歩き始める。
「俺さ、黒猫見るとあれ思い出すんだよな。なんだっけ、ジブリのアニメ」
「魔女の宅急便でしょ?僕それすごい好きだよ!」
「それだ!あれいいよな」
俺はアニメとかあんまり観ないけど、ジブリはやっぱ別格だ。
「ねぇ、ひよしさん。黒猫のジジが途中から人の言葉を喋らなくなるでしょ?あれ、なんでだと思う?」
「あれだろ、魔女の女の子が魔法使えなくなったからだろ?」
「うん、それもあると思うんだけど、僕は、ジジが恋をして普通の猫になっちゃったんじゃないかなって思うんだ。だから人の言葉が喋れなくなっちゃったんじゃないかなって」
そう言って俺の方を見上げて「どうかな?」という感じて首を傾げながらニコッとする。
俺は、空のこういう発想が好きだ。
優しい心を持つ空らしい発想に、俺はなんだか心が洗われるような気持ちになる。
空は可愛いだけじゃなく、不思議な魅力をもった子だと思う。
だからこそ俺の事を惹きつけるし、
もっと一緒にいてぇと思うし、
話をする度に俺は空を好きになっていく。
「空と同じだな」
「え、なにが?」
「空も恋してるだろ?俺に」
それを聞いた空は、アイスを舐めながら俺の顔を見上げる。
なんて言おうかなって考えてる感じの顔だ。
俺はそんな空の顔を見つめ返す。
クリクリとした大きな目。
吸い込まれそうだった。
「にゃー」
空が言った。
「なんだよそれ」
猫の鳴き真似とか可愛すぎんだけど。
「別にー」
空はそう言うと、食べ終わったアイスの棒を口に咥え、着ている半袖パーカーのポケットに手を突っ込んで早歩きで俺の前を進んだ。
空はこうやって気まぐれに俺の心をザワつかせる。
「やっぱお前、猫だろ」
俺も早歩きをして空とまた並んで歩く。
「ひよしさんは、ジブリで何が好きなの?」
「紅の豚だな」
「あー、ひよしさんらしいね」
そんな会話をしながら家までの道のりをゆっくり歩く俺ら。
8月の夜風が俺らの間を通り抜ける。
満月が大小ふたつ並んだ影を伸ばしていた。
END
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