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君に触れたかったんだ⑥
「名前、結城空くんだよね?」
僕は続け様に質問した。
「あ、うん」
同じ学年ということがわかったからか、彼の口調から敬語が抜けた。
たったそれだけで距離が近付いたような錯覚に陥る。
僕は彼を改めてじっと見た。
僕よりも背が低く、僕の口のあたりに彼の頭がある。
近くで見ると透き通るように色が白い。そして、女の子のように可愛い顔をしている。
いつも見ているよりも華奢な感じがした。抱き締めてしまいそうになる衝動をぐっと抑えた。
「結城くん、ここに君を読んだ理由はひとつだけ。僕は君が好きなんだ」
僕は、単刀直入に想いを告げた。
何回もシュミレーションしたから、言葉に詰まることはなかった。
彼も、なんとなくその展開は予想していたのだろう。そんなに驚いた様子もなかった。
これは予想通りだ。
彼がよく告白されていることを僕も知っていたから、驚かないだろうと思っていた。
「ごめんなさい。僕、好きな人がいて…」
申し訳なさそうに彼が言う。
これも予想通りだ。
見ず知らずの人に告白されてオッケーしてもらえるなんて思っちゃいない。
「うん、知っているよ。山口ひよし先生だよね?」
僕は答えた。そこで初めて彼は驚いた顔をした。
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