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第34話【~完~】
「ドクターはもう少し治療を続けてからの方がいいとおっしゃっていたが」
息子が言い出したら聞かない性格なのは、よく分かっていたが、すぐに辺境へ向かうと用意をし始めて、彼は心配で仕方がないという表情を浮かべる。
「.....自分の問題だから、セラピーをこれ以上しても無駄だよ」
平常時のコントロールは出来るようにはなったが、発情期に対して異常な恐怖反応があると言われたのと、その間は外出しないようにと念押しをされた。
どちらにしても、燻った気持ちのままではいられない。
「毎日遠野君が来てくれたが、このまま結婚とかは考えないのか」
いい話だと思うぞと告げる父親に、鹿狩ははあと吐息をついて首を横に振る。
「遠野は今回は協力者としてリストから外したが、そもそもは裁かれる人間だよ。繋がりをもって疑惑をもたれれば、遠野も終わる」
「なるほどな」
荷物も大してないようで、まるで着の身着のままの様子に、父親は少し唸って腕を組む。
「荷物はそれでいいのか?家に一度帰ってはどうだ。母さんが待っているよ」
「家には帰らないよ。金があれば何とかなるし」
強い意志を持った言葉に父親は、そうだろうなと呟いて、それでも親心かたまには戻ってこいと告げた。
「そうだ、お願いしていた、ザナークのことだけど」
「ああ、彼は私の部下で独り身だった男に嫁ぐことになったよ、彼もお前を案じていたからな。出発する日を教えておいた」
「そうか、ありがとう。父さん、心配をかけてごめんなさい。だけど、俺はこの件に決着をつけたい」
しっかりとした鹿狩の眼差しに、父親は僅かに笑みを返すと黒髪をそっと撫でる。
「今回みたいな無茶はするなよ」
「善処します」
世間の秩序は力がないオメガは庇護の対象で、ピラミッドの最底辺だ。
庇護の翼に包まれるものはそれでいいかもしれないが、翼からあぶれた者達が、いかに酷い目に遭っているかを目の当たりにした。
施設のことは氷山の一角で、根深いものが絶対にあるはずだ。
女よりは希少ではなく、性への欲求に特化してしまうオメガは、その秩序へのスケープゴートだ。
必ず決着をつけてやる。
鹿狩は、決意をあらたに拳を握りしめた。
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