街の広場では、大きな祭壇に赤々と炎が燃え上がっている。 　一列に並んだ人々は手に花を持って、その炎へと捧げていった。 　コバルトの空を染める赤い炎は献花の度に一瞬揺らめき、パチンと赤い鱗粉を放った。 　広場の周囲と、そこへ続く大きな道は祭りのような賑わいだ。行商が道端に品を並べ、酒場では飲めや歌えの大騒ぎ。 　この日ばかりは子供も遅くまで起きる事を許され、露天の菓子や食べ物を手にはしゃいでいる。 　広場中央にある噴水に、一人の青年が腰を下ろした。 　白い薄手の衣服を身につけ、胸元には旅人のお守りを下げている。 　青年は噴水から、眼前の祭壇を見ていた。人々の列と、捧げられた花によって音を立てて揺らめく炎を見ながら、ジェードの瞳を細めている。 　そして、手にした竪琴(リュラー)を爪弾いた。 『二王並び立つことはなく 　夜を失った月は涙に暮れる 　夜よ、どうか願わくば 　昇る空を失った月を導き給え』 　喧騒に溶けることのない美しい声と竪琴の音色に、周囲の人々は足を止めた。 　近づいてきた子供達が、無邪気な笑みで青年を見上げてくる。 「詩人さん、さっきの詩はなに？」 「この国の王に捧げられた詩ですよ」 　青年は柔らかい口調で子供達に言った。その間にも竪琴を奏でながら。 「王様？」 　子供達は不思議そうだった。 　その様子に、青年はふわりと笑みを見せる。まるで天使のような笑みだ。 「今日が何の日か、知っていますか？」 「知ってるよ！　国が出来た日でしょ」 「そう。二つに分かれていた国が、一つとなった祝いの日です。ですが、国が一つとなるには沢山の悲しい出来事もあったのですよ」 　子供達は疑問そうに首を傾げている。だが大人達はそれぞれに複雑な顔をしていた。 　そんな人々を前に、青年はやんわりと笑いかけた。 「まぁ、お座りなさい。教えてあげましょう。今日という日を迎えるまでの、苦しく長い戦いの物語を。そして、二つの国の王の深い愛の物語を」 　青年の声が静かに響く。物語を詠う詩人の前には、いつしか沢山の人々が集まっていた。