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第48話 役者揃う(2)

 翌日の夜、ユリエル一行は聖ローレンス砦へと帰還した。だが、砦へは行かず真っ直ぐにクレメンスの屋敷へと向かった。  そこには既にグリフィス、クレメンス、シリルの三人がいて、入ってきた人たちを複雑な表情で出迎えた。 「随分と賑やかですね、殿下。当初の予定よりも、人が多いようで」  クレメンスは入ってきたファルハードとアルクースを見ている。その目は完全に値踏みの目だ。  そんな出迎えを受けたものだから、二人もどうしたらいいのかという様子で戸惑っている。 「クレメンス、悪い癖ですよ」 「おや、これは失礼お客人。悪意があるわけではないよ。私の悪癖だ、許してくれ」 「あぁ、いや…」  なんて言えばいいのか、という様子でファルハードは頭をかく。いちいち芝居がかったような言い回しをするのは、クレメンスの面倒なところだ。 「殿下、お怪我は」 「大したことはありません」 「大したことはない? ということは、無傷ではないのですね」  心配して近づいてきたはずのグリフィスが、今一番ユリエルを睨み殺す勢いだ。元々彼には了承しきれていない行軍だっただけに、怒りが深そうで、ユリエルは肩を竦める。 「ごめんなさい。僕が、傷つけた。殿下と力試しして、抑えられなかった」  へにょんと眉を下げ、申し訳なさそうにすごすごと前に出たヴィトが、小さな声で謝る。  これにはグリフィスも驚いたようで、ついでにどうしていいかも分からないようで、それ以上の咎めもなくあたふたした。 「あーぁ、グリフィス将軍が子犬くんを泣かせた。弱い者虐めは駄目だよ?」 「誰が弱い者虐めだ! まったく、お前らは」  そういうばかりでそれ以上はなく、グリフィスはしょげるヴィトの頭を一つ撫でて、引き下がっていった。 「レヴィンさんは、怪我はありませんか?」  とても心配そうに近づいてきたシリルが、その手を取って問いかけている。遠慮がちに、でも手は離さずに言うシリルに、レヴィンは戸惑いながらもやんわりと笑って言った。 「大丈夫、今回は殿下が大活躍で、俺は何もしていないから」 「本当に?」 「あぁ、本当だよ。さぁ、座ろうか。今夜の話は長いよ」  空いている長椅子にシリルを誘い、ちゃっかり隣に座ったレヴィンを確認し、ユリエルはまず新旧のメンバーを紹介するところから始めた。 「さて、まずは新しい者の紹介ですね。右から、シャスタ族のファルハードとアルクース」  二人は軽く前に出て名乗る。それに眉を上げたのはグリフィスだった。 「シャスタ族?」  グリフィスの黒い瞳が二人を捕える。特にファルハードを見て、その表情は複雑になった。当然だろう、彼も加害者なのだから。 「ファルハード、言いたい事があれば今のうちに言っておきなさい。なんなら、決闘でもなんでもしていい。グリフィスも、受けないわけにはゆかないでしょう」  ユリエルの表情は真剣なものだった。  これからは仲間として、同じ戦場に立つことになる。仲間内での確執なんてのが一番厄介だ。それなら最初のうちに話をつけてもらう方がいい。  それに、ファルハードの性格ならば一度スッキリさせてしまえば、後は切り替えるだろうと思っている。  だが、ファルハードはジッとグリフィスを見て、その後で首を横に振った。 「言いたい事が無いわけじゃない。過去がどうでもいいなんて言わない。だけど、俺の私怨で一族の未来を暗くするような事は、できねぇ」  燃える様な赤い瞳には、不思議と憎しみなどの負の感情がない。それに、ユリエルは驚いていた。 「ユリエル殿下に一族の未来を託し、大事なものを背負って貰った。そん時に、決めたんだ。俺個人の恨みはまず置いておく。そんで、やれるだけの事を全部やろうってな。アルクースも、異論ないだろ?」 「ないね。そしてお頭、あんたの成長にちょっと泣きそうだよ。やっとお頭っぽくなってきたね」 「なっ! 俺だって考える事があるんだぞ」 「うんうん、分かったよ。よしよし」 「よしよしすんな!」  頭一つは長身のファルハードの頭を腕を伸ばして撫でるアルクースに、ファルハードはやっぱり怒ったり赤くなったりだ。けれどユリエルの目には、ちょっと泣きそうなアルクースの照れた顔が見えていた。 「すまない、ファルハード殿、アルクース殿。貴殿らの言い分は、後で個人的に聞く。今は…」 「だから、いいんだよ。もう五年だ、いい加減そこから歩き出さないとどうにもならん。それに、案外いい人っぽいしな。まっ、敵としては会いたかない」  素直な感想を述べ、双方は歩み寄ってがっちりと握手をする。これに、ユリエルは安堵した。 「続いて、海賊バルカロールの副船長のヴィトです」  前に出たヴィトは、なんだか落ち着かない様子で見回す。ちょこんと頭を下げ、やっぱり拙い様子で声を上げた。 「ヴィト・マコーリーです。姉の名代できました。今後、よろしくお願いします」  この様子にはグリフィスやクレメンスばかりではなく、シリルまでもが戸惑った表情で目を見合わせる。やはり、見た目に対して幼く感じたのだろう。 「ファルハード、アルクース、ヴィト、うちの大事な仲間を紹介します。まずは…」  言いかけた時、遠慮がちに扉がノックされた。クレメンスが出て扉を開けると、手伝いの女性が困った様子で扉の外に立っていた。 「あの、お客様がいらしていて」 「客?」  クレメンスは訝しんでユリエル達を見た。だが、今日の客人は事前に知らせておいた彼らだけ。他には予定にない。 「どんな人だ?」 「あの、それが…」  言うよりも前に、階段を登る音がしはじめる。それに全員が警戒した。剣に手をかける者、庇う者、それぞれだ。  やがて、ランプの明かりがゆっくりと闇を照らしながら上がってくるのが、皆の目に見えた。

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