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第77話 悲劇の前夜(タニス)
【ユリエル】
その頃、タニスでも軍事会議が行われていた。
メンバーはグリフィス、クレメンス、レヴィン、ロアール、ファルハード、そしてヴィトだった。
現在、グリフィスとクレメンスが率いる部隊だけで五万はいる。元々ここに駐留している兵の中で、ここに残りたい者だけを残したのだが、それでも結構な数が残った。ロアールの弟がいる第三部隊は全員が残っている。
軍神と呼ばれるグリフィスがいる事で、士気は高くある意味熱狂的な状態でもある今、気持ちとしては申し分ない状態だ。
国内の兵もかなりの数がラインバールへと志願したが、とりあえず聖ローレンス砦で待機してもらった。物資の輸送、戦えなくなった者との交代要員として下がってもらったのだ。
クレメンスの元には智将を自負する者が多く集まったようで、その知識を学びたいとあれこれやっている。戦力としては弱いが、砦の運営や兵器の改良、軍略を詰める作業では役立っている。
「さて、見晴らしのいいこの平原では下手な小細工もありませんが、それでも何もせずに力おしというのは芸がない。明日の作戦としては、先に話した通りです」
ユリエルの言葉に、集まった者は頷いた。その表情は心なしか引き締まっている。
「クレメンス、攻城兵器の指揮と全体の指揮を頼みます。後方はロアール。前線には私とグリフィスが立ちます。レヴィンとファルハードは森を通って敵の武器庫と兵糧庫を爆破してください」
既に決まっている作戦の、最終確認をする。引き締まった表情で頷く者もいれば、未だに渋い顔をする者もいる。
特にロアールは嫌な顔をする。戦いの場に居る事を嫌う彼としては、いい状況ではないのだろう。だが、一番人が傷つく場所でこそ、医師は力を発揮する。
「ロアール」
「分かってる。俺の個人的な感情で迷惑はかけないさ。それに、助かる命を一つでも多く救うのが、医者の職務だ」
「僕は、何をするの?」
呼ばれたもののこれといった作戦を伝えられていないヴィトは戸惑った顔をする。それに彼らは陸上戦は好まない。それを理解して、ユリエルは頷いた。
「マリアンヌ港の守りを引き続きお願いしたいのと、物資の輸送路を確保しておいてほしいのです。陸路に問題があった場合や、急ぐときには船を使いたい。ただ、無理をしないでください。今回はタニス海軍も海上を警戒している。お前達に大きな負荷をかけたくありません」
「うん、わかった。でも、もう少しできるよ。大変だったら、頼って」
心配そうな顔で言ったヴィトが、ユリエルを見る。子犬のような表情に苦笑し、ユリエルは頷いた。
「有難う、ヴィト。後方を取られないようにするだけで、気持ちが楽になります。港から再び国内を脅かされる事だけは避けたいので、お願いしますね」
「うん、わかった。それじゃ、先に戻るね」
「お願いします」
そう言うと、ヴィトはその場を離れていく。それを見送ってのち、ユリエルは表情を引き締めて一同を見回した。
「明日は決戦。今夜は自由に、思うままに過ごしなさい。解散!」
ユリエルの言わんとしている事は、皆に確かに伝わったのだろう。今ここに居る人間が、明日もいるとは限らない。だから、思い残す事のないようにすごせという事だった。
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