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プロローグ

「誰にも言わないって約束して!」  鋭い言葉とともに、まだ幼い体を縦に揺さぶられる。脩は眉を下げると、今にも泣きそうな顔で母である恵美子の顔を見上げる。 「いい? 二度と人の後ろに何かいるって、言っちゃ駄目だからね!」  恵美子の顔は母親とは思えないほどに恐ろしく、泣き腫らした目元を鋭く尖らせていた。  いつもは綺麗で長い黒髪が、今では掻き乱したように荒れていた。 「どうして?」  震える唇で、脩は拙く言葉を発する。 「お兄ちゃんみたいになりたいの? お兄ちゃんは見えると言ったから、いなくなっちゃったんだからね」  脅すような恵美子の口調に、脩は恐怖で体を震わせ、静かに涙を零す。  脩の兄である清治は五歳の頃に、人の前世が見える素質が見込まれ、本家の跡継ぎである姉夫婦に養子に取られてしまったのだ。  もともと世良家は前世が見える家系で、その力を使って信者や政治家とのパイプを作ってきた。  本家の長男である父よりも、姉の方が力が強い。その結果、姉が本家の跡を継いだのだが、なかなか子供が出来ない。  しびれを切らした祖父の鶴の一声によって、力を持った清治に白羽の矢が立っていしまった。  恵美子はもちろん反対したが、本家の命令は絶対で為す術もなく奪われてしまったのだ。  三歳の脩も人の後ろに目をやることがあったので、恵美子は余計にナーバスになっていた。  脩が「お母さんの後ろの白いの何?」と聞いたものなら、鬼の形相で怒ってくる。  今もこうして、恵美子は脩の肩を痛いぐらいに掴んで鋭い視線を投げていた。 「あなたまで、失いたくないのよ……」  恵美子は震える声で、脩を抱きしめる。  母親の震える体を、小さい手で脩は擦る。 ――これ以上、お母さんを悲しませちゃいけない。   脩は幼心に、もう二度とその事は口にしないと心に誓った。 

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