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 世良(せら) (しゅう)は目を疑った。  眠たげな顔をした島崎課長の隣に立っている、長身の男に脩は目が離せなくなる。  その男の背後に白いモヤがぼんやりと見えるのだ。こんなとこに血縁者が現れるとは、と脩は信じられない気持ちで男を見つめる。  その男はまだ若々しさに溢れ、柔和に崩した目元が人懐っこい雰囲気を醸し出していた。  顔立ちも整っていて、男だらけの職場にはもったいないようにも感じる。 「田端(たばた) 秋良(あきら)です。至らない点だらけですが、よろしくお願いします」  周囲から小さな笑いが起こった。  脩は周囲とは正反対に、硬い表情のまま秋良を見つめてしまう。 「まぁーみんな、仲良くしてやってくれ」  島崎は表情だけにとどまらず、口調まで眠たげだ。ゆっくりと首を動かしオフィスを見渡すと、脩と視線が交わった。 「おい。世良。お前が指導係な」  目が合ったから選ばれたのか、はたまた何か気に障ることでもしたのか……世良は訝しげな視線を島崎に向ける。 「お前も入社して三年経つだろ? 指導係に任命する。ちょうど隣が開いてるしな」  驚きのあまり瞠目する脩を尻目に、島崎は話をどんどん進めていく。 「じゃあ、俺は会議に行ってくるから、詳しいことは世良先輩に聞いてくれ」  秋良に向けてそう言い残すと、島崎は部屋から出ていってしまう。 「ほら、世良せんぱいっ。後輩がお待ちかねですよ」  目の前の席から茶化した声と共に、同期の草刈がパソコンの横からひょっこり顔をだす。少し明るい髪色で、垢抜けている容姿がこの会社の数少ない女子の視線を一身に受けている。営業がこんなんで良いのかと、脩はいつも疑問に思っていた。  再び絡まれる前に脩は椅子から立ち上がると、オフィスデスクの先頭にいる、秋良の元へ足を向けた。  脩は近づきながらも、ついつい秋良の背後に視線を向けてしまう。やはり勘違いなどではなく、白いモヤが秋良の背後にある。  秋良と対面したところで、その顔に見覚えがないことに変わりなかった。  脩は親族にのみ白いモヤが見えていたので、血縁者に現れるものだと思っていた。この新人も実は血縁者なのではないかと不安が湧き上がってくる。 「先輩!ご指導のほど、よろしくお願いします」  脩の不安を他所に、愛想のいい笑顔を浮かべた秋良は勢いよく頭を下げてくる。 「よ、よろしく‥‥‥」  脩も若干押されつつ、言葉を返す。  さっきと同様に、いたる所から小さな笑いが起こる。

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