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「おいおい。先輩になるんだがら、もっとシャキッとしろよ」
目の前で事の成り行きを見守っていた、脩の先輩である真壁が苦笑いし、茶々を入れてくる。
羞恥心で脩は頬が熱くなり、思わず視線を下に向けた。
「あぁーもー、ごめんよ」
真壁が困ったような笑みを浮かべ、立ち上がると脩の肩を抱く。
「こいつ、仕事は出来るんだけどさ、ちょっと大人しいから。ごめんな」
明るい声で真壁は、秋良に弁解する。大人しいわけではなく、真壁が騒々しいだけだと脩は内心で反論する。
体育会系のような雰囲気の真壁は、精悍な顔立ちで体つきも良い。仕事も出来るし性格もさっぱりしていて、良い先輩ではある。それでも脩はこのノリには、付いていくことが出来ないでいた。
「こんな美人な先輩の下に付けるなんて、光栄です」
「‥‥‥はぁ?」
思わず脩はぽかんと口を開けて、秋良を見つめる。
「ははっ、確かにな。てかお前、面白いな」
真壁は秋良に笑いかける。呆然としている脩を尻目に、秋良は入社して早々、真壁との距離を縮めたように思える。
「まぁ、今回は俺じゃなくて、世良にお鉢が回ったわけだから。しっかりやれよ」
「はぁ‥‥‥」
真壁に抱かれた肩を揺さぶられ、脩は気の無い返事をする。
「困ったことがあったら、誰にでもすぐ聞いて良いからな」
真壁は笑顔でそう言い残すと、自分の席に戻って行く。
「‥‥‥じゃあ、とりあえず仕事の流れから説明するから」
白いモヤの事は一先ず置いておこうと、脩は心の中で溜息を吐く。今はとにかく好奇心に満ちた目で、自分を見つめる秋良に、仕事を教えなければならない。
「はい!世良先輩。よろしくお願いします」
ひょこりと頭を下げる秋良に、思わず苦笑いが溢れてしまう。
脩にとって初めての後輩が、自分とは正反対な性格なようだ。明るく、好奇心に満ち溢れていて眩しい。
一方自分は、取引先とは上手くやれているはずだ。笑顔だって作れるし、会話もちゃんと出来る。けれども、プライベートになると、途端に引け目を感じてしまう。
母の言葉を思い出しては言葉を詰まらせ、体が強張ってしまうのだった。
隣同士の席に座った秋良に、脩は簡単な業務説明と仕事の流れを説明していく。
さっきとは打って変わって、秋良は口も挟まず、ひたすらメモを取ったり、真剣な眼差しで脩を見つめていた。その姿には、脩も感心せざるを得なかった。
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