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「こういう時こそ、先輩に頼らなくてどうするんだ」  人のことを言えた義理ではないが、秋良にはちゃんと人に頼って貰いたかった。脩は長年の間、自分の力や血筋に悩み続けていた。足枷を付けたまま、日々の生活を送っているように感じ、唯一の癒しは公園で缶コーヒーを飲む事ぐらいだ。  家に帰れば母の機嫌を伺い、会社に行けば取引先に気を使い、電車に乗れば女性に怯える。そんな毎日に正直、嫌気が差していた。それでも、この世に生を受けた以上は生き続けなければいけない。ある意味、籠の中の鳥状態の兄の分まで、自分がしっかり社会で生きていかなきゃいけないのだ。  気が付けば、脩は涙を流していた。頬を伝う雫に気が付き、急激な羞恥心が芽生えた。脩は慌ててワイシャツの袖で涙を拭う。 「せんぱい?」  さすがの秋良も呆然とした目で、脩を見つめていた。 「悪い‥‥‥僕まで悲しくなってしまった」 「取り乱してしまった、俺が悪いんです。すみませんでした」  元の秋良に戻ったのか、申し訳なさそうに素直に謝ってくる。  脩はホッと胸を撫で下ろす。恥ずかしいところを見られてしまったが、秋良が正常に戻ったようで結果オーライだろう。 「落ち着くまで、ここにいたら良い。僕は先に戻ってるから」  脩は用が済んだとばかりに、腰を上げる。秋良を残し会議室を出ると、脩は眉間に皺を寄せた。思わず涙を流してしまったが、それぐらい自分の精神がやられているのだろうか。  そういえば、もうすぐお盆の時期になる。母が暴れ出す日が、刻一刻と迫ってきているのだ。  脩は重いため息を吐き出しつつ、自分の部署へと足を向けた。

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