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 会議室の扉の前に立ち、脩は一度大きく深呼吸をした。覚悟を決めると、扉を軽くノックし部屋の扉を開ける。  五、六人は収容できるようなスペースの会議室に、秋良は机に突っ伏して肩を震わせていた。  その背中を覆うように白いモヤがかかっていて、脩は一瞬たじろいでしまう。小さく息を吸い込み、静かに後ろ手に扉を閉める。 「田端?」  声をかけても返事がない。脩は誰も入ってこないように、鍵を閉めると静かに秋良に歩み寄る。 「どうしたんだ?」  隣の椅子に腰をかけつつ、脩は秋良に問いかける。  白いモヤが目の前でぼんやり揺れ、冷や汗が背中を伝う。  秋良を心配する気持ちもあるが、その前に自分の方が押しつぶされてしまうかもしれない。  拳を強く握りしめ視線を逸らすと、ひたすら秋良に訴えかける。 「課長から聞いた。資料に不備があったんだってな」  秋良の肩がピクリと震え、ゆっくりと顔を上げた。目を赤く腫らし、明らかに泣いているのだと分かる。膝に乗せた拳を震わせていた。まるで、怒られた小学生のようだと脩は苦笑する。 「失敗は誰にだってあることだし、大事なのは失敗した後どうするかだ」 「俺は駄目な人間なんです」  秋良の予想外の発言に、脩は思わず呆気にとられる。いつも明るく、ムードメーカー的存在になっている秋良とは思えない。 「どうして?」  そんな事ない、などと否定したところで、余計に興奮させてしまうだけだろう。ここは、秋良のペースに合わせるべきだと、脩は慎重に訊ねる。 「資料の作成すらまともに出来なかった。俺はやっぱりーー」  秋良は一度言葉を切ると小さく「失敗作だったんだ」と呟く。再び、目から涙が溢れ出ている。 脩は目を見開き、思わず秋良の肩を掴むと自分と向かい合わせにする。 「どうしてそこまで自分を追い詰めているのか、僕には分からない。でもーー」  脩は虚ろな秋良の目を見つめ、両手でがっちりと掴んだ肩を揺さぶる。モヤが手に触れていたが、それどころではなかった。

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