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「目を閉じていてください」  呆気に取られつつも、脩は静かに目を閉じる。秋良が一体何をしだすのか、見当がつかない。不安ばかりが胸に湧き上がる一方だ。  ベッドがはずみ、秋良がベッドから降りたことが分かる。どこに行くつもりなのか、いつまでこの状態が続くのか分からない。いっその事、目を開けてしまおうかと思っていた矢先にベッドが再び沈み込んだ。秋良が戻ってきたのだと分かる。 「暴れたりしないでくださいね」  そう言われてしまうと、何だか怖いことが起こりそうで、なおさら不安になってしまう。 「お、おい。お願いは聞くといったけど、痛いこととか本当に勘弁だから」 「大丈夫です」  いたって平然とした声音が背後から聞こえてくる。それと同時、目の前を布のようなもので覆われた。その感触に、瞬時に体が凍りつく。そのまま頭の後ろで縛り付けられると、目隠しされたのだと分かり背筋に冷たい汗が流れる。 「田端? これは一体?」 「先輩。今日だけですから……今日だけは僕の好きにさせてくれませんか?」  さっきとは違う甘い声音が耳元に聞こえてくる。思わず、背筋にゾワッとした感覚が起こる。 「ど、どういうこと?」  脩の言葉に秋良からの返事がない。どうすれば良いのか身動きが取れずにいると、耳を軽く嵌まれ、ビクッと体が震える。後ろから秋良に抱きすくめられ、優しく腹部を撫で回される。 「――っ……田端? 何するつもりなんだ?」  頭の片隅ではこの流れの展開を予想していたが、聞かずにはいられない。 「先輩は何もしなくいいです」 「そうじゃなくって……っん」  首筋に温かい感触が伝っていく。見えないことで、何をされているのか分からない恐怖心に加え、体中の感覚がやたらと過敏になってしまう。これ以上は……約束しているとはいえ話が違ってくる。 「先輩だけです……俺の味方だなんて言ってくれたのは」  秋良の言葉に、振り払おうとして上げた手を思わず止めた。 「先輩に迷惑をかけていることは、分かっています。だからこそ、今日だけは僕だけの物になってください……明日からはちゃんと、後輩に戻りますから……」  秋良の微かに震える声音に、脩は全身から力が抜けていく。きっと、秋良には心の拠り所がないのだろう。だからこそ、自分に手を差し伸べた脩に入れ込んでしまったのだ。それでも、脩が軽い傷で済むようにと、一晩だけという約束を取り付けたのかもしれない。

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