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「……俺は」  秋良が静かに口を開く。脩は秋良の肩から手を離し、居住まいを正した。 「失敗作なんです。それは自分でも納得しています。母や姉の機嫌を損なわないように、せめて彼女たちが望む事は何でもしていこうと……言われたことは何だってしてきました。先輩なら分かってくれますよね? その家に生まれた以上は、逃れる術なんてないんです」  脩はいつの間にか強く唇を噛みしめていた。まるで、自分と重なる部分を見せられたようで、胸が鋭く抉られる。秋良の気持は痛いほど理解できた。自分も同様に逃れるすべなどないのだから。だからこそ、今でも陸の見えない海の中で漂うように不安定な毎日を過ごしている。 「家族の誰一人として、俺の味方はいません。でも、それは仕方のないことなんです。こうして生まれてきてしまった以上は……」  青ざめた顔を俯かせ、秋良は再び涙を零す。 「……なんで、家族は田端の事を、そんなに蔑ろにするんだ?」  脩はそこが疑問だった。こんなにも仕事も出来て、社交性にも溢れている男の何処に家族は不満を抱いているのだろうか。 「それは俺が失敗作だからです。だからこそ、失敗することは許されないんです。失敗したら……また……っ」  小刻みに肩を震わせ、秋良が嗚咽を零す。これ以上聞くのは酷なように感じてしまい、脩は秋良のモヤに覆われている背中を擦る。 「話したくないなら、これ以上何も言わなくていい。でも、僕はいつでもお前の味方だから……」  自分だって話せないことだらけだ。秋良だってここまで言うのにさえ、かなりの勇気を出したのかもしれない。 「せんぱい……」  秋良が涙を袖で拭い、顔を上げる。目元が赤く染まっていて、まるで別人のようにも感じる。 「それに、田端は失敗作なんかじゃない。それは僕が保証する。まぁ、説得力ないかもしれないけど……」  熱くなりすぎたことに羞恥心を覚え、言葉尻が小さく萎んでいく。 「先輩……お願い聞いてもらえますか?」  虚ろな目をした秋良と視線が交わり、覚悟はしていたものの緊張感がこみ上げてくる。 「うん……何?」  秋良は言いたくないであろう事を話してくれたのだ。それなりに、叶えてあげるつもりではあった。脩は先を促すように、秋良に優しく問いかける。

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