21 / 106

20

 ポツポツと、顔に冷たい感触を感じ、脩は眠りから現実へと引き戻された。まだ重たい瞼を無理やり開き、目の前の影に思わず体を強張らせる。 「……た、田端?」  すぐ目の前に、秋良の顔がある。  いつの間にか部屋の電気が消されていたのか、辺りが薄暗くなっていた。枕元のテーブルに置かれたスタンドライトの淡い光だけが、周囲を照らしている。一気に眠気も酔いも冷めていき、心臓が早音を打つ。  両手を脩の顔の横に付き、見下ろすようにしている秋良は目から涙を流し青ざめていた。  ただならぬ様子に戸惑いつつも、脩は無理やり体を動かしそっと両手で秋良を押し遣る。 「……どうしたんだ?」  体を起こし、急速に打っている心臓を持て余しつつ秋良に声をかける。  力なく項垂れ涙を零す秋良に、以前の出来事が思い起こされた。この間はミスをしたことがきっかけだったが、今回は思い当たる節に見当がつかない。 「……先輩。お願いがあるんです」  秋良が弱々しく言葉を発した。口を開いたことに、少しだけホッとする。このまま黙り込まれたままではどうしようと思っていた。そのお願いがなんであれ、少しは解決の糸口を掴めそうだ。 「何? 困ったことでも起きたの?」  出来る限り優しい口調で脩は語りかける。もしかすると、さっきの電話の内容かもしれない。会社からではないだろうし、プライベートであることは間違えないだろう。  自分も私生活で後ろ暗い事をたくさん抱えている。もし、秋良が私生活で悩んでいてやっと心を開こうとしているのだったら、背中を押してあげたかった。 「出来ることはなんでもするから」 「……本当ですか?」  少し虚ろな目で、秋良が脩を見つめてくる。まるで念を押すような少し硬い声音に、背筋に恐怖が駆け上がる。 「……うん。だから、どうしたのか教えてくれないか?」  後には退けなくなると分かっていたが、秋良を放っては置けない。脩は覚悟を決めると、先を促すように肩に手を置く。白いモヤが手に触れ、軽く目眩が起こった。

ともだちにシェアしよう!