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「明日行きたいとことかある?」
少し疲れた声音で脩は、秋良をちらりと見る。秋良も二本目を手に取り、プルタブを開けていた。
「でも、この辺りってなんにもなさそうですよね」
「少し車を走らせれば、何かしらあるとは思うけど……。まぁ、せっかくだから車を走らせてみるか」
脩はだんだんと適当な返しになってくる。思考に霞がかってきて、頭がぼんやりしていた。酔いが心地よく全身を包み込んできて、瞼まで重たい。たった二本でこの状態とは、いつもの自分なら考えられない。どちらかと言えば強いほうだと思っていた。
「先輩? 大丈夫ですか? まだ二本目なのに早いですよ」
秋良が驚いたような視線を投げかけてくる。「そうだなー」と自分が言ったはずが、まるで他人の声のように聞こえてしまう。
零したら困ると脩は、缶をテーブルに戻す。重だるい頭を抱えるように、額に手を置き俯く。
「ごめん。疲れてんのかな……田端も無理するなよ」
「長時間運転されてましたからね。すみません」
「いや、僕が無理やりそうしたことだから……多分、商談が上手くいったから気が抜けたのかもしれない」
本人には言えないが、秋良に対してもかなり気を使っていたのだ。飲むペースが早かったのも、白いモヤを気にしないようにする為だった。
ふと、離れた場所でスマホが震える音が聞こえてくる。重い頭を上げると、秋良がベッドの上に投げ出していたスマホを手に取り、眉間に皺を寄せていた。
「……すみません。俺です。電話がかかってきたので、ちょっと出てきますね」
そう言って、秋良が少しふらついた足取りで部屋を出ていってしまう。
ここで電話に出ないところを見ると、プライベートなことなのだろう。そういえば、秋良の私生活について何も知らないことに気がつく。でも、聞いたところで聞き返されたら困るのだ。
当面は戻ってこないだろうと踏んで、脩は重だるい体をベッドに横たえる。次第にまぶたが重くなり、脩は眠りの波に引きずり込まれていった。
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