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 食事を終え、部屋に戻ると交代でシャワーを浴びる。持ってきた部屋着を身につけると、脩は窓際に移動する。  まだ、雨が降っているようで窓ガラスが濡れていた。これが都会だったら、夜景が見れて綺麗だろう。でもここは、周囲を山で囲まれていて、見えるのは不気味な夜の木々と街灯に照らされた駐車場だけだった。 「先輩。飲みますか?」  背後から声がかかり、脩は窓から視線逸し振り返る。シャワーを浴びた秋良は肩にタオルを下げ、冷蔵庫を覗き込んでいた。  秋良のスーツ姿しか見たことがなかったせいか、スウェット姿は年齢以上に若く見える。 「そうだね。田端も疲れてるだろうし、早めに飲んで休もう」  この部屋には小さなテーブルとベッドが二つ並んでいるだけで椅子がない。  仕方なく脩はテーブルをベッドに引き寄せる。お互いに向かい合わせにベッドに腰を下ろす。 「お疲れ様」 「お疲れさまでした」  互いに缶をぶつけ合い、一気に煽る。ビールの苦味と爽やかな刺激が喉を潤す。自然と頬が緩んでいく。 「スーツ着てない先輩って、年齢よりも若く見えますね」 「えっ?」  自分と同じことを考えていたなと、脩は思わず苦笑いする。やっぱり、彼とは何かしら血の繋がりがあるのだろうか。思わず秋良の背後に視線を向けてしまい、脩は慌てて逸らす。 「決して子供っぽいとかってわけじゃないですからね。可愛いなって……」 「先輩に対して、可愛いって……」  脩は思わず、呆れたような溜息が溢れた。 「いいじゃないですか。褒めているんですから」  入社当時も、美人だとか言っていたが秋良は少し自分を女のように扱っている節がある。 「僕は少なくとも女じゃないんだ。美人だとか、可愛いと言われたって素直に喜べないな」 「んー、先輩がそう思うなら、軽率でした。すみません」  納得の行かない表情で、秋良は俯いた。責めたつもりはなかったが、謝らせてしまったのはなんだか歯がゆい。 「謝られるほどのことじゃないから……」  二本目のビールを手に取り、口を付ける。気まずさを誤魔化すように、ビールを喉に流し込んでいく。明日は休みのようなもので、飲みすぎたとしても、昼過ぎには軽い観光ぐらいなら出来るはずだ。

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