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「……せ…ん、ぱい…」  体が揺さぶられ、脩はゆっくり瞼を上げる。 「たっ……た、ばた?」  オレンジ色の光に照らされた、秋良の青ざめた顔が目の前にあった。  脩は体を起こすと、涙が頬を伝っていく。 「大丈夫ですか? うなされていたので……」  秋良が脩の隣に腰を下ろす。ベッドの弾みに引きずられるように、嗚咽が溢れ出る。 「ううっ……」  脩は思わず秋良にしがみつく。急激な悲しみと苦しさが全身の隅々を覆い、逃れようのない恐怖が足元から襲いかかってきた。嗚咽が溢れ、涙が止まらなくなる。何がそうさせたのか、混乱した頭では何も考えられない。 「せ、先輩?」  戸惑うような声音で、秋良が息を呑んだ。それでも、体の向きを変えると、脩を胸に抱く。背中に手を添え、優しく擦っていく。その感触に安堵するも、体の震えが止まらない。 「先輩……怖い夢見たんですね」  脩はコクコクと頷く。こんなに嫌な夢は生まれて初めてだった。 「ごめんなさい……」  その一言に心臓が跳ね上がる。思わず、顔を上げ秋良を見つめる。  秋良の頬を伝う涙が、卓上ライトの光に反射して濡れ光っていた。やっと、夢の余韻から覚めてきて、縋り付いてしまった恥ずかしさが湧き上がってくる。 「先輩が寝るまで、傍にいますから」  脩をベッドに横たわらせ、秋良もその隣に横たわる。本当は拒否することも出来たかもしれない。それでも、あの夢をまた見てしまうのではないかと、不安で体が強張ってしまう。脩は秋良にされるがままに、胸に抱き寄せられ頭を抱え込まれた。 「……どんな、夢を見たんですか?」  髪を秋良の長い指先で梳かれ、心地よさに思わずうっとりしてしまう。 「嫌な……夢だった」  脩はゆっくりと掻い摘んで、夢の内容を秋良に伝えていく。髪を梳いていく、優しい指先がまるで言葉を促しているように思えた。  話し終えると、今まで黙っていた秋良がそっと体を離した。脩の顔を覗き込み、秋良の手で目を覆われる。 唇に柔らかい感触を感じ、体が微かに震える。 「先輩。好きです」  視界が開かれ、秋良が優しくも寂しげに微笑んでいた。いなくなっていないことに、思わずホッとしてしまう。あの夢のように、悲しい末路はもう見たくなかった。

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