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「後で、脩からも事情は聞くから……ね」  諭すようでいて、何か含みのある言い方に絶望感が押し寄せてくる。 「後輩くん……いいね?」  今度は秋良に視線を向け、少し強い口調で同意を求める。 「……はい」  秋良がぽつりと言葉を零す。 「秋良……大丈夫なのか?」  秋良がゆっくりと顔を上げ、脩を見つめる。 「大丈夫です。いろいろとご迷惑をおかけしてすみませんでした……」   頭を深く下げる秋良に永遠の別れのように感じてしまう。脩は思わず、唇を強く噛みしめた。 「じゃあ後輩くん。ついてきて」  清治が先立って歩き出し、秋良もその後ろをついていく。 「秋良! 黙っていなくなるな!」  脩はいても立ってもいられず、秋良の背に切実な思いをぶつける。  秋良は一瞬立ち止まるも、そのまま振り返ること無く廊下の曲がり角へと姿を消した。  玄関に立ち尽くす脩を見かねたのか、冴木がお風呂に入るように促してきた。確かに汗だくでなうえ、暴れたせいかワイシャツに皺がよっていて見っともない。  脩は仕方なく大浴場に行き体を清めると、持ってきていた服に着替える。  悄然とした面持ちで部屋に戻り、重い体を畳に投げ出す。  ちらりと壁に掛けられた時計を見ると、十二時を回っていた。長い一日が、いつの間にか終わっていたのだと気付く。  秋良が何を語るのか気になって仕方がない。でも、ここで乱入したところで、追い出されるのが目に見えて分かる。当事者である自分が、なぜ参加出来ないのか分からない。もしかしたら、秋良が尋問を受けているところを見せるのは酷だと、清治が気を使ったのだろうか。  いずれにしろ、秋良は相当な非難は受けているはずだ。  落ち着かない気持ちを持て余しつつも、体がどんよりと重たい。まるで床に沈み込んでしまいそうなほど、頭が重たくぼんやりとしていた。寝てはいけないと分かっていても、瞼が重く緩い瞬きを繰り返してしまう。  耐え切れず、脩は目を閉じると深い眠りへと落っこちてしまった。

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