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 目が覚めると、脩は慌てて体を起こす。襖が白く明るくなっていて、もうとっくに朝だと告げていた。  時計を見上げると十時を過ぎていて、脩は急いで立ち上がると大広間へと向かう。  長い廊下を足早に進み、大広間の襖を開いた。  中には誰もおらず、爽やかな日差しが開けた襖から長く伸びて、脩の影と一緒に畳に映し出される。  ガランとした大広間を前に、愕然とした気持ちが込み上げて膝が震えてしまう。 「脩?」  近くから声が聞こえて、脩はゆっくりと視線を向ける。清治が単衣の着物姿に、少し困り果てた表情で立っていた。 「兄さん‥‥‥」  聞きたいことは沢山あるはずなのに、言葉が上手く喉から出てこない。  清治が辛そうな顔で、視線を伏せた。その様子に、嫌な予感が胸に込み上げてくる。 「酷なことだけど、後輩くんは脩にはもう会わないそうだよ」  頭をガツンと殴られたような、衝撃に思わず膝から崩れ落ちる。すぐさま清治が気遣わし気に、脩の傍らに膝をついてきた。 「でもね、仕方がないことなんだ……。裏切った分家の人間が、スパイ行為を働いたうえ、危険に晒したんだから……接近禁止を命じられてもおかしくない。脩も道理ぐらいは分かるでしょ……」  清治の言っている事はよく分かる。でも、秋良は姉に命じられて強制的にそうせざるを得なかったのだ。  だからこそ、脩を助けようと裏切り行為までした。秋良の意志で動いていたわけじゃない事は明白だった。それなのに……何も弁解出来なかった悔しさで、涙が溢れ出す。 「脩の言いたいことも分かるよ。あの後輩くんの様子から、脩を助けたことは分かっている。でもね、あの場で後輩くんは脩との関係については、ただの先輩後輩だと言いはったんだ。良くして貰った先輩に情が沸いたから助けたとね。前世の関わりについては何も言わなかった。だからこちらとしても、警察沙汰にはしない代わりに二度と近づかない事を約束させたんだ」

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