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何も言わない秋良に脩はどうしたら良いのか分からず、沈黙が続いてしまう。
しばらくすると、秋良の体が震えだし微かに鼻を啜る音が聞こえてくる。
「あ、秋良……?」
秋良から体を離し、脩は秋良の顔を覗き込む。秋良は涙を流し、唇を噛み締めていた。
「泣くぐらいなら逃げるなよ……」
脩は唇を震わせ、秋良の手を握る。
「先輩。すみませんでした……」
震える声で言葉を発し、秋良が嗚咽を零す。いつもの秋良に戻った気がして、脩はやっと肩の力を抜いた。
「良いんだ。もう良いんだ……終わったんだよ。だから、ずっと一緒にいよう……約束だろ?」
一度は止まったはずの涙が再び、頬を流れ落ちていく。コクコクと頷きながら秋良が手を握り返してくる。その力強さに、脩は心の底から安堵した。
秋良に連れ添い、今夜泊まる予定のホテルに案内された。急遽、ホテルの部屋をツインにしてもらい、一緒にチェックインする。
怪訝そうなホテルマンに少し羞恥心が芽生えたが、何食わぬ顔で二人で連れそう。
道雄には知り合いの家に泊まることになったので、明日帰ると連絡を入れた。
部屋に入るなり、秋良に抱きしめられ脩は唇を奪わ
れる。
「んっ……あ、あきらっ」
唇の端から何とか言葉を吐き出し抗議するも、秋良は無視するように角度を変えては、吸い付くように唇を重ねてくる。その執拗さに脩も抵抗するのを諦めるように、薄く唇を開く。すかさず潜り込んで来た秋良の舌を、宥めるように優しく吸い付いた。
秋良が抱きしめていた腕を解き、脩の頭に手を添える。
深くまで口腔を舐めまわされ、脩は思わず腰が砕けそうになり膝が震え始めた。
「はぁっ‥‥‥んっ‥‥‥」
秋良の首に腕を回し、何とか体を支える。秋良が唇を離すと、脩の目を見つめ「ベッドに行きましょう」と甘く囁く。
「先にシャワー浴びたいんだけど‥‥‥」
脩は目を伏せ、少し眉根を寄せる。夏の日差しを浴びながら駆けずりまわったこともあって、汗をかいていた。さすがに、この状態で行為に及ぶのは気が引けてしまう。
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